第1話(1)
──とある春の朝。山の向こうから太陽が昇り、空が少しづつ明るくなっていく。静かだった森の中に、小鳥の声が広がり始める──
「んん...」
小鳥たちの声に起こされ、少女は目を覚ました。
彼女が居るのは、壁や床が木で作られたログハウスの一室。窓際にあるふかふかのベッドの上で、まどろんだ目をこする。
「朝...か...。」
ベッドから降り、ひとつ大きな伸びをすると、少女は部屋を出た。
少女の部屋があるのは2階。階段を下り1階に出て、そのままサンダルを履き外に出る。彼女の家があるのは、広い森の中にある開けた場所だ。
春とはいえ、朝はまだ肌寒く、さらさらと吹く風は寝起きで冷えていた少女の体を、さらに冷やしてゆく。
その寒さに少し体を震わせたが、これ以上冷える前にと、家の裏手にある獣舎へ足を向かわせる。
獣舎は少女の家よりは小さいが、平屋のように横に延びた作りになっていた。
「おはようロウナ。調子はどう?」
入り口を入って左奥の、藁が敷かれ柵で囲われた広いスペース。少女はその中に入り、寝そべっていたオウル(見た目はフクロウのようだが、丸っこい体型で成体の体長は2mもあり、身体中が長い毛で覆われている。)に向かい声をかける。
ロウナは起き上がって、彼女の頬に大きな顔をすり付けた。少女はロウナの挨拶に頭を撫でる事で返事をすると、獣舎の外へ連れ出した。ロウナの柵の中を掃除するためだ。
掃除が終わり、ロウナを柵の中へ連れ戻したら、次は餌を与える。餌は動物の生肉。いつもと変わらない量を食べきったことを確認すると、少女は自分の家へ戻った。
手を洗い、普段着に着替える。肩の当たりが膨らんでいる腕を動かしやすいシャツに、足に軽く張り付くデザインのズボン。上下共にシンプルなデザインだったが、裾に小さく、綺麗な刺繍が施されていた。
キッチンに向かい朝食の準備をする。今日のメニューはパンとスープと山菜の和え物。食べ終えた後のデザート(リンゴに似たフルーツ)も忘れずに。
使った食器を片づけた後、少女は自室に戻って厚手の上着を羽織った。カバンを肩に掛け、目を保護するゴーグルも装着し、再び獣舎へと向かう。
獣舎内の柵扉を全開にし、ロウナに鞍を付けながら、少女は
「ロウナ。朝ごはんのすぐ後で悪いけど、出掛けるよ。」
と言った。そしてそのままロウナの背に乗り、獣舎の外へ。
大きな翼をひろげたロウナは少女を乗せ、地面を勢いよく蹴って、空へ飛んで行った。