088 東進9 ──【浄化】スキル
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「そ、そういうえば、スッカさんは【簡易練成】と【料理】スキル以外にも、何かスキルはお持ちなんですか?」
「アタシ、【浄化】スキルというのを持っているんですよ」
ニンマリとした笑顔を作るスッカさんを見て、僕はこの話題を選択して正解だったと、一人、胸中でガッツポーズを作った。
「【浄化】スキル……ですか。どういうことが出来るんですか?」
少し汚い川の水とかを綺麗にするスキルだろうか?
「今、アスベさんに使ってみてもいいですか?」
「えっ?」
僕が虚を衝かれる形で、一瞬、フリーズしていると、彼女は右の掌を僕に向けて翳してくる。
その姿勢のまま留まること十数秒。
身体が、淡い空色の燐光を帯びた。
そして、体表がチリチリするような感覚に包まれた後、風呂上りのようなサッパリとした爽快感がやってくる。
「どうですか?」
笑みを浮かべてスッカさんが聞いてくる。
「なんか……さっぱりした感じがします!」
だが僕は、彼女の言葉で頬を平手打ちにされたみたいな──暗に“お前、臭かったんだよ”、と言われたような気がして、急激に恥の意識が込み上げた。
日本にいた時分から、身形に無頓着な僕ではあったが、流石にここまでされると感じ入るものがある……。
「あ、あの、今まで臭かったですか? すみません。ずっとここに来てから体を綺麗にする余裕もなかったもので……すみません……」
だけどそんな僕に対し、スッカさんは眉根を寄せて、その後、慌てたように打消しの言葉を並べ立てた。
「あっ、そういうつもりでは。森の中で暮らしていると、それが普通です。だから【浄化】スキルって、村にいたとき、すっごく、みんなから重宝されて、誉められていたんです。強制労働所にいたときも、仲良のよかったエルフの子に喜ばれていたくらいで……」
「あぁ。そうなんですね。すみません。色々とこの世界のことが分からないもので……」
再び、会話が冷え込みそうな予感に怯えながら、僕は続く言葉を探していた。
【会話】スキルというものがあるのであれば、今すぐにでも取得したい。
だが、そんな僕に助け舟を出してくれるかのように、スッカさんが言葉を継いだ。
「あっ、そうだ。魔石で武器を強化してみましょうか? うまくいかなかったら、ごめんなさいですけど」
「あっ! はい。是非お願いします」
そう返事を返しながら、僕は集めた魔石を全て、皮袋から取り出してスッカさんの前に広げた。そして、二振りの剣を、魔石の横にそっと並べる。
「すごい……よく、こんな沢山の魔石を集められましたね……」
感嘆の言葉を発しつつ、スッカさんは魔石を一つ一つ手に取り、矯めつ眇めつ品定めを始めていった。
やがてこれだ、と思った魔石を剣の近くに置くと、彼女はそれらに向けて両手を翳す。
その状態を維持すること数分間……手を翳した空間がオレンジ色の光に包まれる。
そして、さらに数分後。
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スッカさんの手元に顕現したのは……グニャグニャに曲がった一振りの剣……。
ねじ曲がり歪んだその姿は、飢えと渇きに耐えかねて、息絶えてしまった砂漠の旅人のようだった……。




