087 東進8 ──危険が危ない!
──焚火の炎が、夜の闇をほんの少し遠ざけて、雨粒の幕に朧げな柑橘色を浮かべていた。
雨の音は途切れることなく、僕の耳を包んでいる。
その雨音に銀糸を爪弾くような声が乗せられた。
「じゃぁ、アスベさんは【鑑定】スキル以外には、どんなスキルをお持ちなんですか???」
彼女は木で作られたスプーンで、器の中の木の実を掬いながらそんなことを聞いてくる。
焚火の炎を映して丹色に煌めく、八つの瞳がまっすぐこちらに向けられた。
その口元は期待に満ちるように、口角がニッと上げられている。
僕は【気配関知】、【暗視】、【隠密】などのコモンスキルについて話した後…………重たい気分になりがら、ユニーク・スキルについて口を開いた……。
【Hate】、【プレコックス感】、【Ignorance】については、何重にもオブラードで包んだ表現で説明する。こんな感じで…………。
【Hate】→→ 敵の攻撃心を煽り、僕に攻撃を集中させ、仲間に手出しをさせないスキル。
【プレコックス感】→→ 敵を怯ませ、仲間のために逃走や攻撃の隙を作るスキル。
【Ignorance】→→ 隠密スキルのようなもので、仲間が敵の意識に引っかかりにくくなるスキル。
ここまで説明を終えたところで、スッカさんの反応を待ってみたが、何かを考えるような素振りをしていて続くところが出てこない。
なんだか神妙な面持ちだ。
【Hate】の説明をかっこよく言い過ぎただろうか…………
……とういか“仲間”なんてヒー太たちしかいないのに、明らかに事実にそぐわない……過大な……恥ずかしいほどの必死な自己アピール……。
顔から火が噴き出そうだった。
…………絶対に将来、何気ない日常の一コマで、不図この案件を思い出し、身悶えしたり奇声を上げたり…………そんなフラバ案件確定だ、これ……。
そんな感じで自己嫌悪に苛まれつつ、さらに待つこと5秒ほど。
「へぇ。不思議なスキルをたくさんお持ちでなんすね。【隠密】スキルは、アタシも持っていますけど……」
スッカさんは顎に右手の人差し指を当てながら、何かを考えるような仕草で、そんなことを呟いた。
何か嘘でも付いている、隠してる、自分を実際以上に良く見せようと目論んでる……そんなことを見抜かれたのだろうか?
僕は、さらに突っ込んだことを聞かれることを怖れた。
【AAP】※1や【SAS】※2を自らの口で説明することは精神的な苦痛を伴う。メンタルのクライシスだ。危険が危なかった。
僕は逃げるように話題を変えた。
◇
※1 “【AAP】―Alone at Party。飲み会や人が集まる賑やかな場で、自然と一人になってしまうスキル。”
※2 “【SAS】―Speak and Silence。みんなの中で自分が発言すると、パタリと会話が途絶えるスキル。”




