085 東進6 ──晩ご飯
森の外への向けての移動は、一時中止となり、適当な場所でツー太にいつもの土かまくらを作ってもらう。
出入り口には大きめの庇を作り、その下で焚き火を熾こして調理場とした。
夕方になると、降り頻る雨の中、スッカさんがテキパキと料理に取り掛かかる。
移動中に採集した木の実や野草などをナイフで細かく切り刻んだり、僕が持っていた魔物肉に時折手を翳したり。
その時の彼女の手からは、赤味を帯びた柔らかな光が灯されていて……いったいアレは何なんだ……? とその不思議な光景を、「あぁ。なんだか異世界っぽいなぁ」という感慨と共にボーっと眺め──。
──その日の晩御飯は素晴らしいものだった。
碌な調味料もなく、煮るか、焼くかしか出来ない筈なのに、僕の作ったものとは天地の隔たりがある出来栄えだ。
左手に持ったいつものバオバブの実の器。
その中には、美しく敷きつめられた鮮緑色の葉物。その上には、きつね色にこんがりと焼かれた魔物肉。さらにその縁には色鮮やかなこの世界の木の実が添えられていた。
まずはお肉を口に入れて噛んでみると、じゅわっと中から肉汁が溢れるように滲み出した。
魔物肉といえば、いつもは顎が疲れるほどに硬く、無味であることが多いのだが、この肉は柔らかく、噛めば噛むほど芳醇な香りと旨味が口いっぱいに広がってゆく。
そして、バオバブの灰から作った塩しかない筈なのに、何故か鼻に抜けるような香辛料の刺激。なにをどうすればこうなるんだ? 想像も出来ない。
次に下に敷かれている何かの葉物を口の中に放り込むと、少しの苦味がなんとも言えないアクセントになって、肉の旨味を引き立てる。
めちゃくちゃ美味しい! 白いご飯が欲しくなる。
手放しで絶賛していると、スッカさんは淳良そうな感じで喜び、「そんなに美味しそうに食べていただいて、すっごく嬉しいです!」なんていう少々大袈裟なリアクション。まるで大輪の花を咲かせたかのような顔をしてくれる。
「いやいや、本当に美味しいです! 僕がこれまで作ってきたものは、一体何だったんだろうって、思っちゃいますよ」
「あはは。そんなぁ。あっ、でも実はアタシ、【料理】スキルを持っているんですよ」
「へぇ! そんなスキルがあるんですね。いいなぁ」
あぁ。さっき手から出てた赤い光はそういうことかぁ……と得心してると、スッカさんは僕の素朴な返答を、素朴な疑問で打ち返す。
「そう言えば、アスベさんは、どんなスキルをお持ちなんですか?」
なんだか期待に満ちたような表情で、スッカさんが僕の眼を覗き込むようにして真っ直ぐ見てくる。
僕は昼間言いかけて言えなかった、自身のスキルを打ち明けることにした……。
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