078 スッカ7 ──そんなときはオウム返しと決めている。
「そんな、美味しいですよ。それより、ありがとうございました。……奴隷紋から解放されて……自由になれるなんて…………本当に……本当に良かったです……」
料理のことは置いといて、奴隷紋に話が流れた。
どうリアクションしてよいものか、一瞬戸惑う。だけど、そんなときはオウム返しと決めている。
それが無難。
少なくともトンチンカンな返事は回避可能だ。ジャミング症候群罹患者がよく使う、とりあえず会話を繋ぎたいときの処世術。
「それは……本当によかったです……」
僕がそう言うと……。
「……はい。どうお礼を申し上げていいのか…………本当にありがとうございました」
スッカさんが僕の目をまっすぐに見て……そのまま言葉を続ける。
「……まさか、アタシに……こんな日が来るなんて……夢にも思いませんでした……」
彼女の紅い瞳に透き通るような雫が宿り、それはみるみるうちに膨張してゆき、今にも零れ落ちそうだった。
その濡れた瞳に視線を外せないまま……僕は思わず思いを馳せた──彼女のこれまでの悲惨な人生に……
そう……。
スッカさんは17歳の時分から今の歳に至るまで、おそらく……何十年もの間……ずっと、ヒト族の奴隷をさせられていたのだ。
そして、これは勝手な邪推になるけれど……歳のせいで用済みになって、祭壇で磔にされていたのだろう……。
そう思うと、心に言い知れない怒りが沸いてくる。
何様なんだろう、ヒト族とは。
あんな立派で美しい外見をしていながら、やっていることはクズそのものではないか。
頬を伝って滴り続ける彼女の涙が、テーブルの上に色濃い染みを次々と描き始める。
僕は、広がり続けるその染みに、昨日出会った神聖騎士団とやらの面々を重ねて思い……ぶつける先のない感情を只々持て余し……定めることの出来ない視線を……染みと彼女の瞳の間で何往復もさせていた……。
◇
◇
◇
──結局、その日のうちにスッカさんの筋肉痛は治らず、彼女はかまくらの中で一日を過ごした。
森の中。
相変わらず、何かしらの音──楽し気な鳥の鳴き声や、獣の咆哮、風に連なる葉擦れとか──そんな途切れることのない音たちが、陰鬱な気持ちをさらに煽ってくるように僕の耳に押し寄せる。
用心のため、上空を警邏してもらっていたハヤナからの報告では、神聖騎士たちは僕らの位置から遠ざかるようにして、森の中を南進している、とのことだった。
その報告にわずかばかりの安堵を抱き、少しばかり気がまぎれる。
その後、僕は食料調達や、日用品作り、マイケル隊長達から失敬した駱駝に魔物肉を食べさせたり……そんな風にして、うまく制御できない感情を、誤魔化しながらその日を過ごした。




