表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/193

078 スッカ7 ──そんなときはオウム返しと決めている。


「そんな、美味しいですよ。それより、ありがとうございました。……奴隷紋から解放されて……自由になれるなんて…………本当に……本当に良かったです……」


 料理のことは置いといて、奴隷紋に話が流れた。

 どうリアクションしてよいものか、一瞬戸惑う。だけど、そんなときはオウム返しと決めている。

 それが無難。

 少なくともトンチンカンな返事は回避可能だ。ジャミング症候群罹患者がよく使う、とりあえず会話を繋ぎたいときの処世術。


「それは……本当によかったです……」

 僕がそう言うと……。



「……はい。どうお礼を申し上げていいのか…………本当にありがとうございました」

 スッカさんが僕の目をまっすぐに見て……そのまま言葉を続ける。


「……まさか、アタシに……こんな日が来るなんて……夢にも思いませんでした……」


 彼女の紅い瞳に透き通るような雫が宿り、それはみるみるうちに膨張してゆき、今にも零れ落ちそうだった。

 その濡れた瞳に視線を外せないまま……僕は思わず思いを馳せた──彼女のこれまでの悲惨な人生に……


 そう……。

 スッカさんは17歳の時分から今の歳に至るまで、おそらく……何十年もの間……ずっと、ヒト族の奴隷をさせられていたのだ。

 そして、これは勝手な邪推になるけれど……歳のせいで用済みになって、祭壇ではりつけにされていたのだろう……。


 そう思うと、心に言い知れない怒りが沸いてくる。



 何様なんだろう、ヒト族とは。

 あんな立派で美しい外見をしていながら、やっていることはクズそのものではないか。


 

 頬を伝ってしたたり続ける彼女の涙が、テーブルの上に色濃い染みを次々と描き始める。


 僕は、広がり続けるその染みに、昨日出会った神聖騎士団とやらの面々を重ねて思い……ぶつける先のない感情を只々持て余し……定めることの出来ない視線を……染みと彼女の瞳の間で何往復もさせていた……。

 



 ◇

 

 ◇


 ◇




 ──結局、その日のうちにスッカさんの筋肉痛は治らず、彼女はかまくらの中で一日を過ごした。



 森の中。

 相変わらず、何かしらの音──楽し気な鳥の鳴き声や、獣の咆哮、風に連なる葉擦れとか──そんな途切れることのない音たちが、陰鬱な気持ちをさらに煽ってくるように僕の耳に押し寄せる。


 用心のため、上空を警邏けいらしてもらっていたハヤナからの報告では、神聖騎士たちは僕らの位置から遠ざかるようにして、森の中を南進している、とのことだった。



 その報告にわずかばかりの安堵を抱き、少しばかり気がまぎれる。



 その後、僕は食料調達や、日用品作り、マイケル隊長達から失敬した駱駝に魔物肉を食べさせたり……そんな風にして、うまく制御できない感情を、誤魔化しながらその日を過ごした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ