075 スッカ4 ──右往左往
僕は頭を抱え、文字通り右往左往した。
そんな中、突然、ヒー太とシロが僕をかまくらの外へ連れ出そうと、袖を噛んで引っ張り始めた。
と同時に、ヒー太達の“念”が僕の脳に流れ込み、彼らの意図を理解する。
急いでスッカさんを背中に背負うと、ヒー太たちを伴って、豪雨の中、湖に向かって駆け出した。
湖まで辿り着くと、必死で【気配感知】と【暗視】で魔物を探す。
程なくして魔物を見つけると、【Hate】を発動。
壁蔵が僕の前に立ち、バリアを展開して盾役を引き受ける。
とほぼ同時。全長十メートルはあろうかという巨大なワニ型の魔物が、猛り狂った形相で、僕らに向かって突進して来る。ワニが壁蔵のバリアにぶつかると、地面を揺らすほどの大きな衝撃が発生し、その振動が後方にいた僕の足元まで伝わった。
ワニが首を持ち上げて、怒声のような咆哮とともに、前脚で壁蔵のバリアを叩き始める。不可視のバリアを殴打する脚部──その表面は、ダイヤモンドを連想させる菱形の鱗に隙間なく覆われている。
バンッ!! バギンッ!!!と、爆発めいた轟音が響き渡り、その度に暗闇の中に眩い火花が撒き散らされた。
一瞬、壁蔵の前足が宙に浮いた。
ヤバイッ! と思ったその瞬間、ハヤナが夜闇の中から現れて、右の眼球を鋭い爪で抉りとる。時をほぼ同じくしてヒー太とシロが、魔物の喉笛に噛み付いた。
カー子とミー太が、阿吽の呼吸で風魔法と水魔法を脇腹に打ち込んでゆく。
ワニは怒りを加速させ、巨大な尻尾をブォンブォンと振り回す。
だが、ツー太は動じることなく冷静だった。遠距離からの土魔法でワニの下部の土を少しずつ掘り下げて、その巨体を土の中に埋めてゆく。同時に、息を合わせるようにして、壁蔵がバリアをワニの頭部に押し付けるように斜めに傾け、魔物の動きを封じていった。
暫くすると、ワニの前脚と後ろ脚、そして尻尾までが完全に土の中に沈み込む。表に出ているのは背中の一部と──頭部は鼻から上だけになっていた。
僕はワニの背後へ回り、【神木の槌】で背中を覆うダイヤのような鱗をポンッと叩いた。
一回目では、何も変化は起こらない。
もう一度槌を振り下ろす。
・
・
・
三度目の打撃で、ワニは青い粒子へ姿を変えた。
僕は背負っていたスッカさんが出来るだけ粒子を浴びられるよう、背中から青く漂う靄の中に入っていった。
粒子が完全に消えてなくなると、彼女を地面に下ろし、【暗視】スキルで奴隷紋を確認する。
奴隷紋は狙い違わず、その紋様を薄くさせていた。
そして、スッカさんは苦痛が幾分か和らいだようで、表情も先ほどと比較して多少穏やかなものになっている──少なくとも、僕の目にはそう見えた。
これはいけそうだっ!
フェネック達の言う通り、魔物の魔力を取り込むことで、奴隷紋の力を消し去ることが出来そうだ。
僕は急いで、次の魔物を探し出した。
幸運にも、すぐに巨大な猿型の魔物が見つかり、先程同様、みなで魔物を包囲する。
四度、【神木の槌】で大猿を叩くと、魔物は溶けるようにして青い粒子に変化した。
この粒子で、スッカさんの奴隷紋は綺麗に消えてなくなった。
降り頻る雨の中、【暗視】スキルで彼女の表情を覗き込む。
ふり乱された黒い髪が、しどけなく頬や首筋に張り付いているが、表情には苦悶は見られず穏やかだ。呼吸も安定しているように目に映る。
それにしても、ヒー太達はよくもこんな方法を思いついたものだ。
僕はフェネックたちの機転に感謝しつつ、腕の中のスッカさんの表情を見下ろしながら、深い安堵の息を漏らした。
・
・
・




