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071 亜人6 ──黒歴史……


 ──気まずい雰囲気の中、居心地の悪さを掻き消してくれるように現れた、シャチのような魔物。


 その魔物は僕の放った【プレコックス感】に直撃し、空中で反転しては大きな水飛沫みずしぶきを上げて、湖の中へと還ってゆく。




 後には、顔を真っ赤にした僕が残された……




 ……かっこつけて、「プレコックス感──ッ!!」って…………



 何も口に出して言うことじゃないだろ……


 また一つ、黒歴史を作ってしまった……


 

 控えめに言って、死んでしまいたい…………





 だがしかし、恐る恐る彼女の表情を覗いてみると、予想に反してキラキラ輝く八つの瞳がそこにはあった。



 そんな彼女が発した言葉は──。



「すごい! 今のは魔法ですか?! しかも無詠唱!!」


「えっ、まっ、まあ、そんなものです……。……お恥ずかしいところをお見せして、すみません……」


 困れば謝るのが、ジャミング症候群罹患者の処世術だ。




 ……だがしかし、乾ききった大地に一滴の水が吸い取られていくように……すぐに会話はなくなり、再び気まずい空気が二人の間に降りてくる。



 当たり前だが、居心地悪い。

 会話の不在──そんなことは生れてこの方、何度も何度も何度も、経験してきたことだけど、いつまでたっても慣れることはない。




 



 だけど、異世界の神様は、そんなクズにも寛容だった。

 もう一度、救いの一手を差し伸べてくれたのだ。




 急に辺りが暗くなったかと思うと、大粒の雨が降り出した。

 それは天空にある、湖の底が抜けたかのような土砂降りだ。

 雨粒が凄まじい音を立てて足元の石畳を叩き、跳ね返った水がもやを作って、二人の間をあっという間に遮った。

 


 今しがた降り出したこの雨は──僕がこの世界に来て初めての雨だった。


 



 その雨を糸口に、僕は勇気を出して、喉から声を絞り出す。



「……あの……近くの森の中に、雨をしのげる場所を作ってあります。……もし、よければ……」



 雨音で彼女の声は聞こえなかったが、靄の向うの小さな影の、その細い首がはっきりと縦に揺れるのが見て取れた。

 





 ◇ ◇ ◇





 ──土かまくらの中。



 僕はミー太が出した水をヒー太の火で沸かして、一生懸命、お湯を振舞う。こんなものしか出せなくてすみませんと、謝りながら。 



 やがて、焚き火のパチパチと爆ぜる音と雨音を背景に、少しずつ、言葉少なに、ポツリポツリと会話が生まれる。



 彼女の紡ぐ言葉のリズムは、火の爆ぜる音や、雨の音と同調していた。


 異世界での亜人種との会話──そんな特殊な状況がよい方向へと作用したのか。

 自分でもびっくりするほど、落ち着いて彼女の話を聞き──また、自身の身の上を冷静に話すことが出来ていた。


 こんなことは二十七年間生きてきて、生まれて初めての経験だ。

 

 僕は彼女の声で自身の心の内を満たしていくように──厳かな心地で、彼女の言葉に耳を傾けた。

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