070 亜人5 ──救いの手
──「八ツ目族の言葉を、話せるんですか?」
「え?」
僕は慌てて、ステータスウインドウを確認した。知らない間に、【言語理解】がオンになっている。
なんと答えていいものかと迷ったが、とりあえず、「えぇ。まあ、色々ありまして」などと、ゴニョゴニョ言うのが関の山。
僕はいつもの如く、パニックに陥っていた。
何をどこから、どう話せばよいのか、簡潔かつ、順序立てて、話をすることが全く出来ない。
これまでの経緯を頭の中で纏めようとしても、言葉が形作られる前に、それらがバラバラと頭の中で崩壊してゆく。
ジャミング症候群罹患者の悲しい性だ。
考えや想いや状況を、適切な言葉や……あるいは非言語的な手段でもって、うまく相手に伝えられない……。
彼女も次の言葉を探しているようで、続くところが出てこない。
二人の間に気まずい空気が、再び醸成されつつあった……
な、何か話を繋げないと……
僕は居心地の悪さに押し潰されそうになりながらも、言葉を絞り出そうと必死に踠いた。
えぇっと……八ツ目族? なにそれ? 彼女の種族? なんで言葉が分かるのか?
それは【言語理解】で……
……異世界転移して……転移特典???
そんな説明、自分にうまく出来るのか????(無理)
こんなときの僕は、今、自分がどんな表情を作っているのか、まったく自覚出来ていない……。
だがしかし、異世界の神様は僕に優しいようだった。
オロオロするばかりの僕に、救いの手を差し伸べてくれたのだ。
額に玉の汗が出来始めた頃、【気配感知】に大きな魔物の気配が引っ掛かる。
次の瞬間、祭壇のすぐ真下からバシャァァーン! という音が爆発音のように轟き、巨大な水柱が噴き上がった。
そして、その水柱の先端には、巨躯を有する魔物がテラテラと滑るように皮膚を光らせながら、その身を躍動させている。
この世界に来て初めて見る、シャチのような姿をした魔物だった。
その魔物は口を大きく開けて、闇に紛れるようにして落ちてくる。
暗がりの中、白に近い銀色をした大きな牙が鈍く輝き、僕らに迫る。
僕はほとんど無意識に、その魔物に対し、右手を伸ばしていた。
気が付くと、絶叫していた。
「プレコックス感──ッッ!!」




