069 亜人4 ──生まれて何億回目の失言だろうか……
だが、そうやって放心していられたのも束の間だ。
やや間をおいて……僕はパニックになっていた。
まさか、礼を述べられるとは思わなかったのだ。
そもそも僕の人生で、他人からお礼を言われたような経験は皆無に等しい。
予期せぬ出来事に、僕はうまく言葉を返せないでいた。
そして、混乱した脳が僕にさせた発言は、もちろん混乱したもの。
「あ、あの、ここで何をしていたんでしょうか?」
言ってから、すぐに“しまった!”と息を飲んでフリーズした。
何をしてたも何も、鎖に繋がれて磔にされていたんだから、生贄とか処刑とかそんなんだろ! 見れば分かるだろうし、本人の口から言わせることか! もっと当たり障りの無い……この場に適した言葉がある筈だ。
せっかく感謝の言葉をくれた人に、なんてことを言っているんだ…………
生まれて何億回目の失言だろうか……
自己嫌悪の中、恐る恐る彼女の顔を窺うと、口をポカンと開けて、右手を頤に当てている。
僕でも分かるくらいの、分かりやすい──驚きの、あるいは呆れの表情……。
そりゃそうだ。
お礼の言葉に対して、トンチンカンな返事が返ってきたのだ。当然だろう。
僕は挽回しようと、大慌てで喋りながら、口の中で何度も舌を絡ませて、言い訳めいた言葉を絞り出そうと必死で藻掻いた。額に嫌な汗が滲み始める。かなりの醜態。
「あ、あの、すみません。突然のことで、状況がよく理解できていなくて……それで……えっと、あの、そ、そうだ。どういたしまして……じゃない?! えっと、その! あの! あれは──大丈夫でしょうか!?…………そ、そう。ケ、ケガとか? お怪我はありませんか? もしあれば仲間が治せますっ!!!」
混乱しながらも、僕は一気に捲し立てた。
焦る僕に対し、彼女は驚いた表情を崩さない。
しばしの間を置き、彼女の口から発せられた言葉は────
「八ツ目族の言葉を、話せるんですか?」
「え?」




