058 湖へ12 ──壁蔵
──一週間後。
遂に僕たちは、湖の北端に到達した。
目の前に開けた湖は、青黒い水面を陽の光で鈍く光らせ……底知れぬ不気味さを湛えている。
時折吹く湿った風が湖面を撫でて、僕らの後ろを通り過ぎ、背後の木々の葉を揺らすでもなく、どこかへと消えてゆく。
泥臭いような、生臭いような……なんとも言えない不快な匂いが周囲に漂っていた。
湖からは魔物の気配がウヨウヨと湧いていて、ハヤナも上空を飛びたがらない。
そんな……得も言われぬような、底気味悪い場所だった。
そして湖は、向こう岸が霞んで見えないくらいに無辺際に開けている。
僕は【遠見】スキルを使って対岸を凝視した。すると、湖の南端には、石積みの祭壇のような建築物がぼんやり見える……。
山頂から見た時は、気が付かなかったものだ。
僕はハヤナに偵察を頼んだ。
すると彼女は物言わず、音も立てずに飛び立つと、湖を大きく迂回しながら空を滑るようにして飛んでいく。そしてあっという間に向う岸まで辿り着くと、祭壇上空を何度か旋回。その後、僕たちの元へと戻ってきた。
ハヤナ曰く──祭壇の周囲に数名の人影があるという……
この日はそこまで確認すると、バオバブ広場に戻り、【神木の木盤】の指示を仰いだ。
予想通り、木盤は“──祭壇へ向かえ”というメッセージを発した。
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──翌朝。
僕たちはバオバブ広場の拠点を引き払い、湖沿いに移動しながら祭壇を目指すことにした。
バオバブ広場から祭壇まで、とてもじゃないが、一日で辿り着けるような距離ではないからだ。
湖周辺は木々が鬱蒼と茂っており、一日に進める距離は僅かなものだ。
遅々としながら、湖沿いを移動していると、先行するハヤナが何か珍しい生き物を発見した、と告げてきた。
興味を惹かれたので、彼女の案内に従って現場に向かうと、小型の象(マルミミゾウ)が藪の中でのんびりと草を食んでいる。
僕はその象を仲間にすることにした。
【テイム】スキルを施しながら、小さく切り刻んだ魔物の肉を草と一緒に食べさせると、いつもの如く翌日には魔物化していた。
“──【魔物】バリア・エレファント【レベル1】──体高三メートル。障壁魔法を使う。”
名前は“壁蔵”と名付けた。
壁蔵が先行して道を切り開くことで、それ以前と比べると、かなりのハイペースで森の中を行進出来る。
そんな僕らは毎日、夕方になると湖の魚介を捕りまくった。
魚採りは頗る容易な作業だ。
湖の淵に立ち、【気配感知】に引っかかる小型生物に【Hate】を放つ。
こうするだけで、魚やエビが僕目掛けて水中から飛び出した。
僕が身を躱すと、魚たちは万有引力の法則に従うほかなく、自然と地に落ちてはビチビチとその身を跳ねさせた。
同様の方法で水棲の魔物を、手もなく狩ることが出来た。
おかげで僕たちのレベルは、労せず上がってゆく。
──勿論、狩りの後の礼拝合掌の習慣は、続けている。
夜はヒー太が熾してくれた火で焚き火を作り、捕った魚を焼いて食べ、ツー太が作る土のかまくらで野宿した。
そんな日々を過ごしていると──僕はなんだか楽しい冒険をしているような気分になっていた。
【神木】の指示すら、なんだかゲームのクエストのように思えてくる始末。
かっこいいチートスキルも、ハーレムもないけれど、異世界には残業も対人関係のストレスも何もない。
はっきり言って、異世界は最高だった。
『第二章 一人ぼっちの魔界生活 ──العيش كشخص معوق』は、本話が最終話となります。
ここまで、読んでくださった皆様、本当にありがとうございます<m(__)m>
次章からは、この世界の亜人種や騎士たちが出来る予定です。




