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057 湖へ11 ──こうした種類の快楽は……2


 そのことに気づかせてくれたのは、ミー太だった。




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 ある日、僕は狩りを終え、ニヤニヤとした不気味な笑みを浮かべながら、青い粒子をヒー太たちと浴びていた。


 不可視のエネルギーが、体の隅々を満たしてゆく──。

 知覚不能なその感覚に、最大限に意識を向ける。


 そんな中、遠く離れたところから、ミー太が僕の方をじぃっと見ていた。

 いつもの天真爛漫な雰囲気とは異なるその態度。その視線。

 

 その目が、僕に“気づき”をもたらした。

 独りでに記憶のページがパラパラとめくられ、指の止まった先は、子供の頃見たとある男の子の眼差しだった。

 


 ──小学校低学年の頃だ。


 校庭では僕と同じクラスの男子たちが、“ケイドロ”だか何だかをして、楽しそうに遊んでいた。


 そんな中、僕だけが彼らとは随分離れた場所にいて、蟻の巣を見つけて、じーっとそれを眺めていたのだ。

 今のように、ニヤニヤとした不気味な笑みを浮かべながら。


 当時の僕は巣から出たり入ったりする蟻の動きが面白くて仕方がなかった。

 いつまで見ていても見飽きない。永遠にも思われるほどのその単調な繰り返しは、心に安心のようなものを呼び込んだ。



 そんな僕とは対照的に、遠くで、楽し気にはしゃぐ子供たちの集団──。

 その集団の中に、チラリチラリと、僕を窺う男の子。


 その時のその子の目が、ミー太のそれと重なった。

 その男の子は、なんとも言えないような眼差しで僕を見ていた。


 幼少時代の僕には、彼の瞳に宿らせた心情など、何一つ、察することは出来ない。


 だが、今なら理解出来る。あの時の男の子の気持ちを。


 僕を心配していたのだ。


 僕が一人ぼっちでいることを、気にかけていたのだ。

 僕が──まっとうな子供の営みから、はみ出てしまっていることを──案じていたのだ。



 僕はミー太の目によって、“今まさに、人の道を踏み外している”ことに──すんでの所で、気づくことが出来たのだった。




 今、思い返すに、これまでもこんなことは何度もあった。


 ──小学校、中学校、高校、大学……学年に一人くらいの割合で。

 僕を心配そうに見てくれる人はいた……。


 そういう人物は様々で──僕と同じようなヒエラルキーの最下層の住人もいれば、クラスのリーダー格の人もいて…………。



 だけど……僕は彼らからのメッセージ……あるいは救いの手を、うまく掴めぬまま、大人になってしまったのだ……。




 ◇




 兎に角、この日以来、僕は魔物を倒し、青い粒子を浴びる際には手を合わせることにした。


 それはただの偽善ぶった、形だけの行為なのかもしれない。

 結局、命を奪っていることには変わりはない。


 だけどこのまま強くなることと引き換えに、心を流されるままに汚くするのは嫌だった。




 なので、この世界の激しい生存競争の犠牲者に──明日は自分の番かもしれない──魔物たちの最期の姿に──手を合わせ、彼らの死をいたみ。いただいた命を、己の血肉として大切に使い続けることを心に誓う。

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