055 湖へ9 ── 愚直に眼の前の課題に向って邁進するだけではいけない
色んなことを胸中に渦巻かせながら、僕は井口さんの元へと戻った。
◇
井口「なんだ、お前。こんな雑用も出来ないのか。本当にクズだな。というか、小池さんから全く相手にされてないのな、お前」
・
・
・
愚直に眼の前の課題に向って邁進するだけではいけない。
湖に辿り着いたはいいが、その後、何の役にも立たない──神木様から、「お前、もういいや。使えないし」とか言われて、元の世界に無一文で戻される。
そんな未来だって、十分あり得る。
だから……強くなれる時になっておかねば……後々困るのは自分達だ。
【神木の木盤】も特に不満のメッセージを示さなかったので、この方針を黙認されたものだと僕は都合よく受け取った。
最初に取り組んだのは、先日掘った塹壕の拡充と、土塁の強化だ。
これはツー太が毎日、少しずつ時間を掛けて取り組んでくれた。
そして日々、僕らは塹壕戦法で魔物を狩り、レベル上げに勤しんだ。
これは一見、単純な戦法に見えるが──ジャミング症候群罹患者が苦手とする他者との連携プレーの要素を多分に含む。
このため、やり始めるとすぐに、意外と難しい戦い方であることに気がついた。
そもそも集団行動が苦手な僕に、このような連携プレーは向いてない。
端的にいって、僕は足を引っ張る存在だった。
具体的には──僕の障害特性──すぐにパニック状態に陥る感情制御能力の乏しさや、周囲の状況を瞬時に把握する──空気を読む能力の低さ等が──この戦法のボトルネックとなった。
僕は戦いに際しての興奮で冷静さを失い、ハヤナの合図前に飛び出したり…………四方の仲間の動きが目に入らず、振り回した【神木の槌】がフェネックたちに当たりそうになることが屡々あった。
戦闘で味方に危害を加えるなんて最悪だ。
だがしかし、そんな僕ではあったが、何度も何度もこの戦法を繰り返しているうちに、徐々に冷静に戦うことが出来るようになっていった。
また、フェネックたちの方も、僕のぎこちなく、予測し難い動きに早い段階で順応してくれ、おかげで味方に殺されるような悲劇は起こらなかった。
彼らは僕とは違い、運動能力と状況適応能力が頗る高い。
そんなこんなで、塹壕戦法は徐々に洗練されたものとなってゆく。
──10日後には…………
塹壕 : 横幅10m、たて幅2m、深さ3m
土塁 : 横幅10m、厚さ1m、高さ2m
という、ちょっとした軍事拠点のようなものが出来上がっていた。
パッと見、難攻不落の要塞みたいだ。
実際、塹壕完成後は僕よりレベルが+2~3の魔物であれば、2~3匹同時に狩ることが出来た。
これにより、討伐の効率化がなされ、僕らのレベルは順調に上がってゆく。
一週間後の僕らのレベルはこんな感じ。
僕 : レベル7 → 10
ヒー太たち : レベル6 → 10
ハヤナ : レベル2 → 7
だが、決して良いことばかりではなかった……
『順調だ』……そんなことを思っている時ほど、陰で悪いことが起きている…………




