表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/193

054 湖へ8 ──……チッ……2


 ……舌打ち……? と思った瞬間小池さんは立ち上がり、ツカツカと隣の島の総合企画調整課の白鳥の所へ向かった。


小池「あぁ、白鳥くん。ごめん。ちょっと今、いい?」


白鳥「あっ、小池さん。大丈夫ですよ。なんですか?」

 そう言いながら、白鳥が席を立つ。


小池「申し訳ないだけどさぁ、部のフォルダに午後の会議の資料入れてあるから、人数分印刷して井口さんのとこに届けてくれない?」

白鳥「あぁ。そんなことならお安い御用ですよ。……でも……今、大量にプリントアウトすると他の方に迷惑になるので、お昼休みに印刷して、午後一で井口さんに届ける。ってそんな感じでも大丈夫ですか?」


小池「うん。それで大丈夫。井口さんの方には私から言っとくから。というか、お昼休みに仕事させちゃってごめんね」

白鳥「全然構いませんよ。お気になさらず」


小池「この埋め合わせはいつするから」

白鳥「いえいえ、そんな。大丈夫です。小池さんにはいつもお世話になっているので、気にしないで下さい」


小池「そう? いつもありがとう。白鳥くんがいてくれるおかげで、本当にみんな助かってるよ」

白鳥「いやぁ、僕のほうこそ小池さんにいつも助けられているので」


小池「嬉しいこと言ってくれるなぁ」

白鳥「本当のことですから。あはは。では、お昼休みが開けたら、井口さんのところへ伺いますので、よろしくお伝えください」


小池「うん。まかせて。あっ! そうだ」

 そう言うと小池さんは一旦、庶務課の自席に戻り、机の引き出しから何かを取り出した。



小池「はい。先週、友達と長瀞ながとろに行ってきたんだけど、そのお土産」

 そう言いながら、小さな透明の小袋を白鳥に手渡す。

白鳥「へぇ。長瀞ですか? いいですね。あっ、揚げみそせんべい? 僕、好きなんですよねぇ、これ」


小池「香ばしくて美味しいよね」

白鳥「はい。先週、人にもらって初めて食べたんですけど、味噌の香りがよくて。好きになりました」


小池「へぇ。そうなんだ。誰にもらったの?」

白鳥「高校の時の友人が、彼女と長瀞に行ったらしくて、そのお土産に貰ったんです」


小池「へぇ! そうだったんだ。じゃあ私、どこかで白鳥くんの友達カップルとすれ違ってたかもね」

白鳥「えぇ。可能性ありそうですね」


小池「じゃあさ、今度の休み、社内の若手だけでどっか行かない?」

白鳥「いいですねえ。車出してデイキャンプのBBQとか、楽しそうですね」


小池「それ、いい!」


 その後も次々と二人の間に、会話の花が咲き乱れる。

 先程まで色を失ったように──人の声がなかったこの冷たい空間に──二人の周りだけ、色を伴った温かい景色が広がってゆく。




 まるで魔法でも見てるみたいだ……とか。


 小池さんの“じゃあさ”が、何を受けての“じゃあさ”なのか? まったく意味が分からない……とか。


 “社内の若手”の中に僕は含まれてないんだろうな……とか。



 色んなことを胸中に渦巻かせながら、僕は井口さんの元へと戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ