040 魔界の生活4 ──バオバブの樹
──ある日のこと。
僕はいつものルーチンをこなすべく、足取りも軽く、森の探索を進めていた。
毎朝通っているだけあって、樹海の中には自分で作った獣道めいたものが出来ている。
そのおかげもあり、過去の到達地点の最遠点をあっさり更新。
その奥の未踏の地に分け入ると、不思議な光景に出くわした。
そこは、森が少し開けたような空間で、小学校の校庭くらいのスペースがポカリと口を開けるようにして広がっている。
その広場のような場所には、アフリカに生えていそうな不思議な形をした巨木が何本も立っており、林冠には多くの猿やリスたちが、如意自在に戯れていた。
この木、何だろ?
“──【バオバブの木】──食料品や日用品の原料になる。
・若葉、実 → 食べられる。
・木の皮 → 裂いてロープを作れる。煎じると薬になる。
・木の灰 → 塩の代わりに。
・種 → 油がとれる。
・実の殻 → 器等に利用可能。”
ほぅ。これは有益そうだ、と僕が葉っぱや果実の採取を始めると、どの木にも洞があることに気がついた。
洞の中を【暗視】スキルで覗いてみると、人が何人か入れるほどの空間があり、小さなヒヒっぽい生き物が二匹、昼寝をしている姿が目に飛び込む。
そのヒヒっぽい生き物を見ながら、ふと思った。
それは僕がずっと抱えていた素朴な疑問──【神木の槌】は、普通の野性動物に有効なのか? ──というものだ。
以前、トカゲに試したときは、尻尾が普通に潰れただけだった。
このヒヒが相手だと、どうなるのだろう?
今の自分であれば、ヒヒ一匹にそうそう後れをとるとは思えない。サイズも猫より少し大きい程度だ。
念のため、【鑑定】を使う。
“──【マンドリル】──地上や樹上で行動。果実、木の実、昆虫などを食べる”
特別、危険な生き物でもなさそうだ。
僕は【神木の槌】を握りしめ、片方のマンドリルに【Hate】を放った。
マンドリルが激昂し、歯を剥き出しにしながら洞を飛び出し、向かってくる。
十分な距離まで引き付けて、今度は【プレコックス感】を叩きつける。
マンドリルは顔を引き攣らせ、一瞬、金縛り状態になり、その後回れ右で背を向けた。
僕はすかさず距離を詰め、マンドリルの背中に【神木の槌】を叩きつける。
槌が、マンドリルの背に減り込む──。
魔物のときとは、全く異なる手応えだった。
しかし、それ以外に特に変わった点はない。
マンドリルは背中の痛みを庇うようなヒョコヒョコとした動きで、もう一匹と共にどこかへと逃げ去った……。
なんだか、可哀想なことをしてしまった……。
申し訳なさで口を真一文字にして、二匹の背中を黙って見送る。
だがしかし、これで白黒はっきりついた。
やはり、【神木の槌】は対魔物専用の武器のようだ。
現状では、自分より強い野性動物に出くわしたら、【Ignorance】と【隠密】でやり過ごすしかないだろう。




