032 サバイバル14 ────レッド・バード5──【神木の槌】
『どうせ魔物に一方的に蹂躙されて死ぬんだ──“そんな時に、何をしても無駄だから、何もしないことをしよう”』
つまるところ、僕はそんなことを思っていたのだ。
そう気がつくと、心の中に“怒り”のような感情が微かに芽生える。
気が付くと僕の思考は180度、その向きを変えていた。
「はは……」
「そもそも僕に、失うものなんか最初から何もないじゃないか……はは……」
「運良く逃げおおせても餓死。戦って負けても死ぬ。なら……!」
「……やれるだけやろう。全力を出し切ろう!」
「異世界で新たな人生を始めたんだ。勝ち負けなんてどうでもいい!」
そう心を奮い立たせると、僕は全力の【Ignorance】を放った。
すると、先程まで狂ったように僕を突いていたレッド・バードが動きを止めた。
そして、僕の背中から飛び降りて、地面の上を素知らぬ顔で歩き始めるではないか。
僕は顔を上げて、鳥の動きをじっくりと見遣った。
鳥は僕のことなどお構いなしに、明後日の方を向いている。
ゆっくりと近づき、【神木の槌】を上段に構える。
振り上げた右手から血が滴り、腕を伝って地面に落ちた。腕は千切れるほどの疲労感。
心臓が早鐘を打ち続ける。
……1……2……3……4……。
深呼吸を繰り返し、数を数えて呼吸を戻す。
レッド・バードは、目と鼻の先。
片足で頭などを掻いている。
その余裕の仕草に、自然と拳に力が入る。
僕は【Ignorance】を解除して、全力の【プレコックス感】を放った。
鳥が飛び上がって驚いて、背筋を伸ばして硬直する。
“気を付け!”の姿勢になったその鳥に、僕は腕を重力に預けるようにして、【神木の槌】を振り下ろした。
神器が鳥の脳天をまっすぐに捕らえる。
その手応えは質量ある何かを殴ったようなものではなく、紙風船か何かを弾き飛ばしたような、至極軽い感触だった。
木槌が鳥を捕らえた直後、鳥は青い粒子に形を崩し、粒子は微かな煌めきを宙に残しながら、溶けるように消えていった。
消え去った粒子の跡から、赤いガラス状の石と、小さな肉がポトリと落ちる。
僕は無意識のうちに止めていた息を吐き出すと──その直後、手と脚が大きく震えた。
糸を切られた操り人形のように、へにゃりとその場に倒れ込む。
やった……なんとか……魔物を倒せた……
体の芯から言いしれない高揚感が溢れだし、耳の中から音が消え去り、視界だけが昂ぶりの中で不安定に揺れていた。




