030 サバイバル12 ──レッド・バード3──学習性無力感
──僕の心は、既に折れていた……。
手の甲の痛みが、まるで他人事のように感じられる。
どれほどの時間が経過しただろうか。
鳥の魔物にタコ殴りにされながら、僕はぼんやりと昔の記憶を思い浮かべていた。
幼稚園の頃、「お前はなんかヘンだ」と言われ、同じ組の男の子に馬乗りにされて、今みたいにボコボコに殴られたことがあったっけ……。
あの時は──篠原涼子似の先生がイジメを止めてくれたんだっけ?
自分では何もしなかったな。
黙って虐められてる状況を甘受して……自分自身で状況を変えようとしなかった。
言い返すことも、殴り返すことも……。
僕はこれまでの人生で、何かを成し遂げたという成功体験が、全くと言っていいほど無い。
新しい試みは常に失敗し、新しい環境に馴染めた例は一度もなかった。
新しい習い事、新しいクラス、新しい学校、新しい趣味、新しい人間関係、新しい業務……
それらの中で、うまく熟せたものは一つもない。
小学生の頃、親に無理やり通わされた野球クラブでは、いつもお荷物だった。
学年が上がり、新しい人間関係が始まる度に、僕は教室の中に一人ぽつねんと取り残された。
中学に進学しても親しい友人が出来ることはない。
取り留めのない雑談で、楽しそうに笑っている級友たちの姿を、絵画や映画のように眺めるだけ。
彼らの輪には入れない。
一人で出来る趣味でも始めようと、ギターを触ったこともあったけど、不器用過ぎて簡単な曲すら弾けやしない。
社会人になっても……周囲の怒りを買うか、無視されるか、忌避されるかのいずれかだった、というのは以前も述べたとおりだ……。
そんな幼少期、少年期、青年期を過ごしてきたので、いつしか僕は物事を始める前から諦めてしまう、そんな心の癖がついていた。
失敗や挫折の経験は、新たな失敗や挫折の呼び水にしかならなかった。
これまでの三十年近い人生で……僕は“学習性の無力感”しか学んでこなかったのだ。
それは、今まさに起きていることでもある。
魔物と戦い始めてすぐに心のどこかで──どうせ負けるに違いない──そう思っていた。
その卑屈な精魂は、僕の心の片隅にいつも鎮座していて、僕の思考や行動を常に陰から支配している。
自分自身の“自由な意思”なんてものはなく、僕は過去の記憶と経験に、自動操縦のように動かされているだけの人形のような存在だ。
──いつも僕は無意識下で、こんな風に思っていた。
自分のような障害者が、ケンカに勝てる訳がない。
健常者みたいに、器用に熟せることは一つもない。
だから、何をしても無駄。
何をしても失敗する。
努力なんて障害者には意味がない。
前向きな考えほど不毛なものはない。
それは異世界でも同じことだ。
だって……障害者なんだから。仕方ないじゃないか……。
・
・
・




