029 サバイバル11 ──レッド・バード2
僕は迷わず回れ右をして、足音を潜ませ、そっとその場を立ち去った。
そのまま十歩ほど歩いて──。
僕はハタと思った。
このまま逃げていいのか?
振り返って、じぃーーっと、レッド・バードとやらを凝視する。
真っ赤な羽毛に覆われた……小鳥。
頭頂部は鶏冠のように毛を立たせ……嘴の周りには、まるで口髭のように黒い羽毛が生えている。
なんと言うか……小ぶりながらも屈強な雰囲気を湛えており、妙な迫力を感じさせる。
だが、レベルは僕と同じ“1”だ。
このまま逃げ去ることは出来る……。
でも……それでいいのだろうか……?
ずっと逃げ回っていても、ジリ貧じゃないか……。
もう水以外に口に出来るものは何もない……。
ここで逃げたら飢え死に──戦って負けても……死ぬ。でも、勝てば……。
繰り返すが、相手は僕と同じレベル1。しかも昨夜のハゲタカよりは弱そうだ。
僕は静かに覚悟を決めた。
“頼むぞ!”、と胸中で小さく呟き、右手の中の【神木の槌】をジッと見つめる。
やろう! 逃げ回っていても、いずれ死ぬだけだ!
昨日、無様に負けてしまった雪辱を果たそう!
この神器とやらを信じよう!
自分自身にそう言い聞かせると、【Ignorance】を強化させた。
鳥の背後に回り込み、【神木の槌】を振りかぶる。
そして、小さな深呼吸を一つ。
鳥の背中に目の焦点をしっかり合わせる。
真っ赤な羽毛に覆われた小鳥。
十分に手の届く距離。大丈夫。
自分自身にそう言い聞かせる。
心の中で、1、2──と唱え──。
──3!
鳥の背中めがけて、木槌を振り下ろす。
木槌が当たる直前、レッド・バードはヒョイッという感じで、近くの枝へ跳ねるように飛んで逃げた。すかさず【Hate】を放つ。必死だ。
レッド・バードはキィィ! と一声、怒気を孕んだ高い鳴き声を発すると、嘴をこちらに向けて飛んで来た。そして、口を大きく開き──喉の奥に小さな火炎が宿った、と思った瞬間それは大きく膨れ上がり、眩い淡黄色となってこちらに迫った。
思わず目を瞑り、顔の前で両腕をクロスさせる。
小さな炎が腕を焦がし、皮膚の表面に鮮烈な痛みが走った。
鳥は流れるような動線で華麗なターンを決めると、僕の肩を両肢で掴み──そして、僕の頭をその嘴で突き始めた。
ムクドリサイズとはいえ魔物だ。ただの小鳥に突かれるのとは訳が違う。
頭から血が噴き出し、僕はパニックになって、叢の中を転げまわった。
その間も、鳥は攻撃を加え続ける。
僕はいつしか頭を抱え、カメの子状態になっていた。
レッド・バードは、僕の背中にポジションを固定し、大きな鶴嘴でも打ち下ろすかのように、首筋を嘴で抉り続ける。
首筋を庇う僕の手から、大量の血が溢れ出た。
腕を伝って落ちる血が、周りの地面に茶色い染みを広げていく。
──僕の心は、既に折れていた……。




