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019 サバイバル1 ──スタンド攻撃


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 どれくらい、歩いただろうか?


 おかしなことに、目と鼻の先にある筈の洞窟にいつまでたっても辿り着けない。


 気がつけば、日が完全に落ち切る寸前だ。


 僕は目をよーく凝らして、辺りを見回した。


 夕陽の黄金色に染め上げられた岩と土、そして灌木がまばらに生えるばかりの先ほどと変わらない光景。

 ただ……洞窟だけが見当たらない…………


 何故、元の洞窟が無くなったんだ?

 


 気がつくと、自分の想像とはてんで別の状況になっている──それは僕の人生で、何度も反復されてきた──馴染みのある経験だった。


・入れたハズの書類が、鞄にない。

・納期は三日後のハズなのに、今日までだった。

・大宮行きの電車に乗ったのに、何故か品川駅に到着。

・5番ホームへの階段を上がったハズなのに、上った先は1番ホーム。

・商品Aに関する資料作りを頼まれて、作って見せると、「俺は商品Bの資料を作れといったハズだ」と怒られる。





 こんなとき、いつも僕は「っ!……今、何者かのスタンド攻撃を受けている!」と思うのだった。


 実際は僕の記憶違いや聞き違い、勘違いに乗り間違いなのだが……


 今もおそらく、ボーっとした頭で歩いていたため、洞窟を通り過ぎるか、別の道に誤って進んでしまったのだろう。

 こんな注意力散漫な人間が、訳のわからない異世界で生き延びることが出来るのだろうか……


 そう思うと、不安と情けなさで涙がこぼれた。


 滲んだ視界で、天を仰ぐ。

 日は完全に沈みきり、濃い藍色の空には涙でぼやけた月が浮かんで見える。


 指で涙を拭うと、数多の星のきらめきが現れた。

 それは日本の都会では、絶対に見ることの出来ない、息を飲むほどの美しさだった。



 無数の星が今にも大地に降ってきそうだ。



 ──月と星々の光だけが、僕の周囲を頼りなく照していた。



 ……無駄に動き回るより、覚悟を決めて、ここで朝まで過ごすべきか?



 そんなことを考えていると、突然、僕の足首にチクリとした痛みが走った。

 反射的に視線を落とすと、10センチほどの大きさの黒い影がゴソゴソと動いている。


 僕は慌てて、【鑑定】スキルを発動させた。



“──【サソリ】──一般的なさそり。有毒。”



 心臓がトクン、と小さく脈打った。


 やや間を置いて、心が……徐々に恐怖の色に塗り変えられていく。

 その恐怖心と戦いながら、僕はなんとか【プレコックス感】を発動させると、サソリは一目散に逃げ出して、あっという間にどこかに消えた。



 僕はその場に尻餅をいて放心した。

 持ち前のチキンハートが、痛いほどに肋骨を叩く。


 そんな中、必死になって、保有スキルを確認してみる。

 パニックで空回りする脳味噌。その脳味噌の中に湧いて出て来る情報を、僕は必死に読み漁った。


 だけど焦るばかりで、その内容を意識にうまく引っ掛けられない。

 説明情報は脳裏を右から左へ、ツーっと流れてゆくばかり。


 それでも必死に、役立つ情報はないかと探しまくった。



 何か解毒魔法めいたものはないのか?!!



 残念ながら、探せども、探せども、見つからない。

 あるのは社会生活を困難にさせるようなポンコツスキルばかりだ。



 ふと気が付くと、身体が氷のように冷たくなっていた。

 全身が寒気立ち、悪寒が止まらない。呼吸も徐々に苦しいものになってゆく。


 苦痛の波は徐々に大きくなり、やがて心臓をギュッと掴まれるような鋭い痛みが僕を襲った。

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