018 スキル確認4 ──【Hate】
そして、僕はいよいよ、【Hate】スキルをバッタ相手に試すことにした。
恐る恐る、慎重にスキルを放つ。
すると、これまで後ろを向いていたバッタが、急にこちらを振り向いた。
さらに強く念じると、バッタは白緑の翅をバサリと広げる。
そして、そのまま動きを止めた──それはきっと、次の攻撃のための予備動作……。
──なんて思って身構えたその瞬間。ブォオオオン、という怒気を孕んだ翅音を立てて、僕をめがけて飛んできた。
思わず目を瞑って、右手で顔をガードする。
が、バッタはガードを掻い潜り、右の頬に噛み付いた。反射的にバッタを手で払う。
手の甲に残るバッタの脚のトゲトゲとした感触。それが肌を粟立たせる……。
そうこうしていると、地面に叩きつけられたバッタが再び、翅を広げて襲来してきた。迷いのない直線的な動きだ。
僕は、半狂乱になりながら無我夢中で【プレコックス感】を繰り出た。
すると、バッタは空中で見えない壁にぶつかったかのように急停止。
その身をビクリと震わせて、地面に落ちるとコソコソと気まずそうに何処かへ消えた。
うん……。
【Hate】は遠くにいる敵を呼び寄せたり、逃げようとする敵を逃がさないために使えそうだ。
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──一通り、保有スキルを試した後、僕は神器──【神木の槌】──を使ってみることにした。
この武器で獲物を叩くと、どうなるのだろうか?
──低木周辺で生き物を探すこと数十分。
少し大き目のトカゲを見つけることに成功したので、【Ignorance】を使って近付いて、【神木の槌】で背中を軽く触れる。
何も起きない……
つづいて、少し強めに触れてみる。
何も起きない……
可哀想だが、全力で叩くことにする。
するとトカゲは跳ねるように逃げ出して、槌の下には潰れたトカゲのシッポだけが残された。
特におかしなところは見当たらない……
神器──【神木の槌】……優れた武器ではないのか? それとも、攻撃相手や状況を選ぶのだろうか?
ふと気がつくと、いつの間にか太陽が、地平線に没する寸前。
周囲の世界はすっかりと薄墨色に染まり、今いる山の頂は、最後の残照を浴びてその輪郭を金糸雀色に滲ませていた。
僕は自身の視野が、狭くなっているのを感じた。
今日はここで止めよう。
これ以上続けると、疲労の餌食になる。
ジャミング症候群罹患者は、自身の体調変化に鈍感である者が多いらしい。
僕も例に漏れず、そうだった。
さらに僕は何かを始めると、周りが見えなくなってしまう、そんな過集中の傾向も持ち合わせている。
この過集中のために、会社員時代は朝まで仕事をする羽目によく陥った。
だけど多くの場合、労力に釣り合う成果を出せることはなく、徒に疲労を蓄積させるだけだった。
同じような失敗を繰り返していてはダメだ。
スキルと神器の検証は、ここで切り上げよう。
そう心の中で呟くと、僕は【神木の槌】を手のひらに収納し、目と鼻の先にある洞窟へ向かって歩き出した。
疲労で脳が重く、痺れたように感じられる…………。
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