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176 白鳥翔の闘い3 ──重み


 亀裂からは、巨大な魔物たちが姿を現した。


 白い何かの幼虫、ダンゴ虫、蟻、蚯蚓ミミズ土竜もぐら、ヤスデ、蛇、カエル…………


 様々な姿を模した魔物の巨躯が、白鳥と騎士たちを取り囲んだ。

 そんな魔物たちの中で、一際目を引いたのが──マグマで出来た正体不明の巨人だった。身の丈20メートルはあるだろうか。

 

 騎士たちの顔は恐怖に歪み、目の光は完全に消失している。

 これらは地下数キロ圏内に棲息していた魔物を、明日部あすべが【Hate】で呼び寄せたものだった。


 魔物たちは怒りの形相に顔を歪め、天を揺るがすような雄叫びを上げながら、騎士たち目掛けて一斉に突進を始めた。



 そんな中、いつの間にか騎士たちの雰囲気が、先程とは変わったものになっていることに、白鳥はハタと気が付いた。

【鑑定】スキルで確認すると、白鳥を含む騎士たちのステータス・ウインドウから【プレコックス感】が消え、【Hate】だけが残っている……。



 白鳥は軽く唇を噛み締めた。



 騎士達の“Hate性”に反応し、怒り狂ったマグマの巨人が咆哮と共に顔を大きく仰け反らす。そして、首を振り下ろすとほぼ同時。閃光めいた炎を吐いた。

 赤黒く膨れ上がった熱の奔流が、騎士たちの眼前に迫る──。


 白鳥は大地を蹴り、その身を巨人と騎士たちの間の空白地帯へと割り込ませ、周囲一帯を呑み込むような巨大な炎を──たった一振り。剣で冷静に薙ぎ払った。


 津波のように押し寄せた火炎は、真一文字に切り割かれると、瞬く間に乾いた空気の中へと溶けて消えた。


 そんな白鳥に、間髪入れず、土竜もぐらの魔物が巨大な爪を落とす。

 白鳥は眉一つ動かさず、攻撃を見切り、たった一歩のバックステップ──前髪をわずかに揺らす程度の最小限の間合いで爪をかわした。


 時を移さず、他の魔物たちが騎士たちを襲っていた。

 白鳥は【飛行魔法】で騎士たちと魔物たちの間を、目にも止まらぬスピードで飛び回り、魔物たちの攻撃をなしながら、剣や魔法で一体ずつ、しかし確実に仕留めてゆく。






「ラッシュ!」



「ライトニング!」



「三獄四斬!」



「バッシュ!」



「アイスランス!」




 その姿はまごうことなく、異世界の勇者の姿だった。

“Hate性”というハンディキャップを背負いながら、数多の強大な敵たちにたった一人で立ち向かうその姿は──陳腐な表現だが──“格好いい”と表現する他ない。


 騎士達はそんな白鳥の姿を、まるで神々しいものでも見るかのように、みな我を忘れて見蕩みとれていた。






「エクスプロージョン!」



「セイクリッド・ブリーズ!」




 健常者上位種として生きてきた“重み”がそう見せるのだろうか。

 重い“業”を科せられてなお、彼の姿は気高く、とうとい。 





「焔槍乱舞!」



「雪花無双!」




 電車10両分はあろうかという長大な蚯蚓みみずと、ヤスデの魔物が一瞬で形を崩し、一条の青い粒子を残して消えてゆく──。

 一欠けらの肉片すら残さずに……




 最後に残されたマグマの巨人に向け、白鳥はゆっくりと左の手の平をかざした。


 差し出された手の平に、高密度の光の粒が収束してゆく。




「セイクリッド・エクスプロォォォーーーージョンッッ──!!」


 

 白鳥の叫び声とほぼ同時。彼の手の中の光が一気に膨らみ──。


 真っ白な光が、辺り一面を呑み込んだ。

 その数瞬後、耳をつんざくような爆音が、衝撃波を伴ってとどろいた。


 騎士たちの立つ大地が、轟音とともに大きく揺れる。


 舞い上がった砂埃が風に流され、視界を取り戻すまでには、少々の時間を要した。

 


 ──数刻の後。

 砂塵の合間から現れたのは、直径100メートルはあろうかという、巨大なクレーターと──。









 遥か彼方。

 ──地平線の端から端まで広がる──濛々(もうもう)と立ち上る土煙だった。




 その土煙が地響きを連れながら、騎士たち向かって押し寄せる。



 白鳥が【遠見】スキルで目を凝らすと、煙の下には無数の異形の影。


 その影が少しずつ濃くなり、次第にその姿が明らかになると──。



 ──魔物たちの天を震わすような咆哮が、周囲のサバンナ一帯に轟いた。









 ──明日部あすべは西方から──新たな魔物を呼び寄せていた。

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