017 スキル確認3 ──配られたカードで
保有スキルの内容を知り、涙目になりながら僕は外に出て、謎スキルを一つ一つ試すことにした。
まずはこの状況で、唯一有用と思われる【鑑定】からだ。
手当たり次第、周囲のものに使っていく。
“──【石】──普通の石。”
“──【低木】──普通の背の低い木。”
“──【蟻】──普通の蟻。”
ざっくりとした説明ばかりで、有益な情報は得られない。
「普通の」という説明があるということは、普通でなければ、もっと詳しい説明が見れるのだろうか? レベルが上がれば、もっと色々分かるのだろうか?
疑問はそのまま放置して、次のスキルを試していく……
“──【Hate】──あらゆる生命体から強い怒りを買うスキル。”
これは不用意に使うと、取り返しが付かないことになりそうなので、後回し。
なので、次は【プレコックス感】を近くにいた蟻で試すことにした。
これは対象に“なんか、この人、嫌な感じがするな……近寄らないようにしよう……”と感じさせるスキルだ……。
恐る恐る、蟻に対してスキルを放つ。
すると、蟻の動きが止まった。
さらに強めに念じると、挙動不審な動きを始めて、ソワソワしだす。
さらに意識を集中させると、回れ右して、コソコソどこかへ逃げ去った。
別の蟻に試しても、どれもこれも同じ反応。再現性がある。
うん。
これは、敵に襲われたときに使えそうだ。
昨日の亀にこれを使えば、うまく逃げることが出来たのかもしれない。
一見、何の役に立たないようなものでも、工夫次第で役立つものだ。
僕は努めて、前向きに考えることにした。
不平を言ったり、泣いたり、喚いたりしても、何も変わらない。
配られたカードで、やり繰りするしかないのだ。人生というハードモードの無理ゲーを……。
そう自分自身に言い聞かせ、つづいて、【Ignorance】を試みる。
これは、他人から無視されるスキルだ……。
辺りを見回し、今度はバッタを見つける。
スキルを発しながら、ゆっくりと近づくと、バッタのすぐ傍まで近寄ることが出来た。
バッタが逃げようとする素振りは、今のところない。
拾った小枝で突いてみても、無反応。
次は……可哀想だが、足で踏みつけることにした。
ゆっくりと右足を上げ──そして、足を振り下ろそうとしたその瞬間、バッタは羽ばたいて逃げてしまった。
流石に危害を加えられれば、無視を続ける訳にはいかないらしい。
だがこのステルス性を利用して、凶暴な生き物から隠れたり、相手の背後に回り込んで先手を取る……といったことが出来るかもしれない……。
続いて、【AAP】※1、【SAS】※2、【EAS】※3、【EAL】※4、【OAC】※5、【HUP】※6、【NR】※7……
順番に一つずつ試していくが、何も起こらない。
屋外で、しかも虫相手では、意味をなさないスキルなんだろう……。
※1 Alone at Party。飲み会や人が集まる賑やかな場で、自然と一人になってしまうスキル。
※2 Speak and Silence。みんなが談笑している中で、自分が発言すると、パタリと歓談が終わるスキル。
※3 Enter and Silence。部屋に入ると、中で楽しそうに話していた人々が急に会話を止めるスキル。
※4 Enter and Leave。部屋に入ると、中にいた人々が黙って部屋から出て行くスキル。
※5 Open and Close。誰かが部屋に入ろうとして、中に僕がいることが分かると、そっとドアを閉めてその場を立ち去るスキル。
※6 Hang up Phone。電話をしても、電話に出てもらえないスキル。
※7 No Return。メールをしても返事が来ないスキル。