014 初期装備 ──注意力のなさに……
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やがて意識が──海に沈んだ沈没船が固いロープに縛られて、徐々に引き上げられていくように──ゆっくりと、僕の身体に戻って来た。
──気が付くと、左半身がなんだか熱い。
パチパチという、火が爆ぜる音が聞こえる。
そして、腰や肩、後頭部に痛みと冷気を感じた。
瞼を開けると、左側には緑色の炎を上げる不思議な焚き火が目に映る。
僕はまた、最初にいた洞窟に戻っていた。
亀のような生き物に殺されて……生き返ったってことなのか……?
呆然としながら、身体を起こして、腕や足を見てみるが、怪我の痕は見当たらない。
僕は何とは無しに、パチパチと音を立てている緑色の炎に目を向けた。
今さらだが、この非現実的な色の炎は何なんだろう?
さらに、注意深く観察する。
すると、突然頭の中に“──【再出発の火】”、という情報が浮かび上がった。
思わず、目を見開く。
もう一度、落ち着いて炎を見る。
炎──それ自体は先ほどと同じだ。
次に、僕は浮かび上がった情報に注意を向けて、そこに意識を集中させた。
“──死ぬとここに戻る”
簡潔な説明情報が、脳に流れる。
僕は反射的に辺りを見回した。
ここに来た時、気が付かなかったが、洞窟の片隅には様々なものが整理整頓された状態で置かれてあった。
一つ一つに意識を通わせ、注意深く目を凝らす。
“──【鍋】──食べ物を煮たりする。”
“──【パン】──3つある。硬い。”
“──【皮袋(小)】──水が入っている。水筒代わりとして。”
“──【皮袋(大)】──荷物類の持ち運びに。”
“──【小型ナイフ】──使い勝手がよい。”
“──【毛布】──夜は冷える。”
“──【神木の木盤】──チュートリアル&指示用。”
“──【神木の槌】──神器。体内に収納可。失くさないようにヒモ付き。”
──以上、八点。
そして、最後に自分の着ている衣服に目を向ける。
会社にいたときのスーツではなく、白いワンピース。
そして足には何かの皮で作られたサンダル。
頭にはスカーフのようなものを巻いており、黒いバンドで締められている。
まるでアラブの民族衣装のようだ。
何故、ここに来てすぐに気が付かなかったんだ???
僕は自身の注意力のなさに、心底呆れた。