011 明日部太郎4 ──ハンディキャップ
──その後も、仕事を転々と変える羽目に陥った。
そして、どこの職場でも──判で押したように酷い扱いを受け続ける。
入社直後は優しかった上司や同僚は、ひと月が過ぎると、僕に対する態度を明瞭に変えていた。
──ある者は、敵意を露わにし。
ある者は露骨に僕を避け、困ったような──気まずいような、居心地の悪そうな反応を見せた。
そして、ある者は──僕の存在を、最初からその場にいないものとする……。
職場に行けば──怒声を浴びるか、忌諱されるか、無視されるか──そのいずれかだった。
僕の担当業務は日に日に減らされ、仕事はすぐに無くなった。
他所の部署から人が来て、僕しかいないと分かると、みんな踵を返して帰って行った。
そして……僕が他部署に電話をすると、名乗った途端に電話を切られる。仕方がないのでメールをしても、返事が返ってくることはない。
そんな毎日だった。
僕の神経は、徐々に蝕まれた。
恋人はおろか友人すらも……生まれて此の方、一人もいない。
誰に相談することも出来ず、完全な孤独の中で絶望に塗れた。
──就業時刻を知らせるメロディが流れ始める頃。
社屋は暮色に包まれて、窓際の僕の横顔を、斜陽が赤く染め上げる。
定時を過ぎているにも関わらず、みな和気あいあいと親し気な言葉を交わしながら仕事を継続している。
誰にも何も告げることなく席を立つ。
社員たちの陽気な声が、僕の背中を押すようだった。早く帰れと。
室内に響く皆の弾んだ会話や笑い声──。
それらを踏み躙るようにして、執務室を後にする……。
挨拶はしない。
返してくれる人がいないから。
──人としての尊厳は失われ、劣等感と無力感だけが、肥大してゆく。
僕が纏う負のオーラは、日々厚みを増した。
──二十五歳になった時、僕はさらなるハンディキャップを背負った。
ストレスから来る、“肥満”と“若ハゲ”だ。
もともとブサイクな顔面ではあったが、本当に悲惨なことになった。
街を歩けば、職質を受けることも屡々だ。
ブサイクというのはハゲただけで……こうも容易く人権を剥奪されるものなのか…………落涙しながら噛み締めた。
周囲の同世代の人間が、会社の中で少し上の立場に上がったり、結婚したり……人生を前へ前へと進めてゆく青年期。
僕はデブになり、ハゲになり……将来に希望なんて何一つ見出せなくて……生き辛さだけが、悪循環的に増加して……悲嘆の涙に暮れるばかりだった。