第117話:メイド会議
部屋の中から声がする。
「さて、それでは会議を始めます」
ここは我々に宛がわれた客室。
会議の参加者はリーゼロッテ様のお屋敷のメイド。
「メイド長不在のため、議長は僭越ながら私アンナが務めさせていただきます」
ガチャリ
居ます。
「あーあ、メイド長帰って来ちゃった」
なので、私が議長を務めます。
ところで、何の会議を開こうとしていたのですか?
「リーゼ様に頼まれた美味しい物についてです」
シャーリーが挙手をして答える。
皆さんも既に気付いていると思いますが、
この街の料理は、リーゼロッテ様のお屋敷のあるコモンズの料理とは大分違います。
パンもあるにはありますが、主食として食べられているのはお米です。
スープも味噌味のいわゆる味噌汁が基本です。
それ以外にも、出汁やお醤油と言った物も重要です。
さらに、出汁にも色々な物があります。
出汁とはフォンドボーのような物で、
昆布という海の草で取る出汁、
鰹節と言って魚の燻製から取る出汁などです。
これらの食材は一部既に購入済みです。
さらに、一部食材は苗と種を購入しました。
お屋敷の畑で育てる予定です。
場合によっては畑の拡張も必要になるでしょう。
「食器も少し違うよね?」
クレアの言うとおりです。
箸と呼ばれる2本の棒。これがナイフでありフォークでもある存在です。
それと茶碗というカップ状の食器、これと対をなすお椀。
これらは購入が決まっています。
人数分と予備を含めて30セットほど購入しましょう。
クレア、手配しておきなさい。
「了解しました。メイド長」
それと、誰か厨房は見ましたか?
「はい」
アンナが挙手をする。
「お米を炊く専用の鍋のような物が必要だと思います」
その通りです。修練を重ねれば他でも代用は出来るかも知れませんが、
我々は全員初心者です。なので、まずは基本に忠実に調理を行いましょう。
「卵焼きは専用の四角くて小さいフライパンで作ってました」
なるほど、通常のフライパンではあのような形に焼くのは困難でしょう。
と、このように調理器具についても専用の物が必要になります。
ようやく本題の料理についてです。
まずは、リーゼロッテ様が賞賛していた物として、
・お寿司
・卵かけご飯
・味噌汁
・お汁粉
・磯辺焼き
・うどん
・天ぷら
・おでん
・焼き鳥
などがありますが、これ以外に何か見つけた方は報告してください。
「リーゼロッテ様はお召し上がりになりませんが、清酒は必要かと思われます」
なるほど、ミミア様のおっしゃるとおりです。
エリザベート様はいたくお気に入りのようでしたし、
料理の調味料としても使用されていました。
清酒とみりんは調味料としても使われていますが、
基本的にお酒なので、おそらく製造には何らかの許可証が必要になるでしょう。
そのため、完成品を手に入れるしかないでしょう。
まずは基本となるご飯と味噌汁。
アンナはこれの調理方法を調べておきなさい。
必要な調理器具や調味料などあれば手に入れておきなさい。
「分かりました。最低限ご飯とお味噌汁は作れるようになっておきます」
お寿司ですが、これは難しいですね。
そもそも新鮮な魚というのがコモンズでは手に入りません。
お屋敷の庭に池を作って養殖というのも考えましたが、
海の魚は海の水でないと生きられないそうです。
次に卵です。
卵かけご飯だけではなく、おでんでもうどんでも使用されていました。
だし巻き卵も卵料理です。これらもリーゼロッテ様は好んでお召し上がりになりました。
王都であれば新鮮な卵も手に入りますが、
コモンズの街には鶏を育てている農家がありません。
「いっそのことお屋敷で鶏を飼うのはどうでしょうか?」
それも一つの案ですが、既に敷地に空きがありません。
それに、祝福の泉がないと薬の制作が出来ないので、
引っ越すことも出来ません。
なので、お屋敷で鶏を育てるのは無理でしょう。
そう言うこともあって、現状ではご飯とお味噌汁の再現に尽力することにします。
将来的にはどこかに農場と牧場が欲しいところですね。
「お父様に頼んで土地を探して貰えば良いの!」
ヨナの父上というと国王陛下ですか、
さすがに国家権力に頼るのもまずいでしょう。
「今回もリーゼ様の手柄なんだし、王様からの褒美ってことにすれば良いの!」
それは良いアイデアかも知れませんが、
今回依頼を受けたのはあくまでも勇者であるシオン様です。
リーゼロッテ様は美味しいお魚を食べに来ただけですよ?
「今回もおそらく皆さんお屋敷に住むことになるんですよね?」
その通りです。アンナはよくわかっているでは無いですか。
リーゼロッテ様が直接名前を授けられた、コロン様とレビ様は確実ですね。
おそらく、ベルゼビュート様とシュブ=ニグラス様もお屋敷に住まわれるでしょう。
「それではさすがにお屋敷が手狭になるのではないでしょうか?」
クレアの言うとおりですね。
そうですね、ルルア様とミミア様がいらっしゃった時点で残りの部屋はありませんでしたし、
今回は4名となると、どうするのでしょうか?
「我々メイドが通いになるのでしょうか?」
シャーリーの危惧も理解できます。
地下室くらいしか拡張できそうな場所はありませんし・・・




