表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大海の鯱、井の中を知らず  作者: 異端(ヰタン)
hidden_回想
6/85

回想五話1/2 アマテュルク、蠕動


~草原~


「見ろ、もう前の方では戦闘が繰り広げられているようだぜ。」


「というか俺ら尖兵をよ、統率する人間も無くして戦場に放り出すってどういうことだ...」


「確かに、今考えると少しおかしいが所詮俺達尖兵は寄せ集め。元囚人や放浪者が殆どだ。待遇が芳しくないのは予想出来た筈。」


「その分今から沢山の首を狩って功績を立てるんだよ、ちったぁ考えろ粗チン野郎。」


「チッ、後で殺してやる。」


尖兵は戦場を前に血が(たぎ)っている様子である。

各々が暴言を吐き散らしながらも隊列は崩さず。


それに加え中には五角天の首を狙い一攫千金を求める者も。


「でも敵の歩兵は先の精鋭軍や幹部の人が殆どやっつけちゃったよね...」


「俺らが出された理由はどう考えても戦場を混乱させるのと五角天の足止めだろ。メガネはああ言っていたが内心は容易に想像がつく。」


「つまらねぇよな、何で毎回寄せ集めだからって俺ら尖兵が蔑ろにさらなきゃなんねぇんだよ。」


「与えられた得物は顔を隠せるくらいの木製の楯と簡素な槍か。防具はほぼ無いに等しい。」


「おいおい、戦う前から何マイナスなこと喋ってるんだよ。冷静に考えろ、この数だぞ?この数がいるなら五角天の一人や二人、軽くいなせるだろ。」


「フハハ!それもそうだ!皆、五角天の身に付けている装備や王城のインテリアは高く売れる。戦争の途中でくすねるのもいいだろ?」


「俺...この戦争が終わったら結婚するんだ...」


相当数いる尖兵達は常に互いを鼓舞しつつ草原を王城に向け行軍する。





~草原中心部~





革命軍精鋭と王政府軍尖兵が激しく剣戟を交わすここに、血に飢えた"マチェテ"を携えた男が一人。


「最ッ高の気分だ...ケヒャッ!」


既に何人か刻んだらしく刃先から真紅の雫が滴り、男の歩く跡に裁縫の如く点線を描いていた。

また、気の所為か刀身が生き生きと朱の絢爛(けんらん)たるその姿を示しているようにも見える。


「見える、見えるぞ!向こうから進軍してくる大量の獲物の姿が...!

もう我慢出来ねぇ...」

男の体躯(からだ)がミチミチと音を立てながら引き締まり始め、血管に流れる血の朱色が肌に浮き出る。


...男は額の前に朱に輝く刀を構える。


「獲物への道を塞ぐ歩兵どもがァ!手前等ごと()らってやる...早く、迅く啖らわせろォォォォォォォ!!!!」


合戦場をつんざく雄叫びと共に本格的に男の体躯が赤いオーラを纏い始める。


「歩歩、『人修羅』ァ!」


大空を仰ぎ叫んだと思えば獲物を狙う猛獣の如く煙立つ体躯を前へ屈め...


「前へ、前へ前へ前へ前へッ、前へェェェッ!!!」


己と獲物の敵尖兵との間を結ぶ直線上に、最も多く混戦する人間が位置するよう見定め、紫電一閃走り出す。





~草原中心部付近~





「うむ?何だこの叫び声は...」

中心部よりも少し低い場所を行軍していた尖兵達からは草原の中心、つまり戦争の第一線で何が起きているかが分からなかった。


「あれ...静かになりやがった...」


尖兵達はあからさまに動揺し始めるが、中心部への歩みを止めず。

第一線へとその足を踏み入れた。


小高い丘のような場所に出ると、深紅に色づいた草々が目に焼き付いた。

また既に事切れた戦士や、折れた王家紋付きの旗などが散見される。


「紅葉...?いや、雑草が紅葉する訳がない、それにこれは赤すぎるな...」


「グッ...!何だこの臭いは...」


「お前、臭い消しのマスク付け忘れたのか?」


「いや、この臭いはおかしい...それにこの一帯の草原が異様な程に赤く染まっている。」


...


...


「何でだろうねぇ?拙にぶった斬られた仏の臭いじゃないかなァ?」


突然、野太い男の声が響いた。

目を向けると、戦線から一人の影が此方へ歩いてくるのが見えた。



「誰だ?」


「誰か向こうから歩いてくるぞ...」


(一人で俺らに向かって来るということは...普通に考えると一人で俺らに匹敵する自負があるということなのか...?)


「ごっ、五角天だ...五角天が来るぞ!」

尖兵の内一人が言い放つ。


「おおっ!いきなり本命か...首は早い者勝ちだ!俺が貰うぞ!」


「おい待て!糞がァ!」


五角天の首欲しさに尖兵達が(そぞ)ろに駆ける。



ー咬ませ犬の身の丈も弁えず...

拙の首を狙う(おこ)がましい輩には跼蹟(きょくせき)の鉄槌をー


「天に(こうべ)がぶつからぬよう身を屈め、地が崩れぬよう丁重に歩みを進める...拙はなんと謙虚な...それに比べ手前等は。


歩歩、『蹂躙』!」


キュゥィィィィンと刀が金属音を鳴り響かせると同時、男、アマテュルクの暗赤色のオーラはピークに達した。そしてその刃は向かってくる尖兵に向け一直線に伸びる。そこに一片の躊躇もなく。







...



...



アマテュルクについての情報はここで途切れる。

そう、まだ語るべき時では無い。


決して悟られてはならない。




不可解という恐ろしさ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ