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大海の鯱、井の中を知らず  作者: 異端(ヰタン)
雇傭試験
57/85

十九話 面接試験

~王城前噴水公園~


ブライは一人ベンチに座っていた。

あの時、少年と話したベンチだ。


(さっきので本当に大丈夫なのか...?)


面接を終え、心臓の鼓動がおさまるまで座って一息付こうと考えていたのだが、全然緊張は解れない。


テロから数日。

街は活気を取り戻していたが、流石に公園に人は殆ど居なかった。

居るとすれば警戒中の兵士、たまに城へやって来る見るからに金を持っていそうな男達。


ブライは背もたれに腕を載せて座りながらふんぞり返った。


鳶が太陽の周りをチラチラと飛んでいる。


そして、ブライは暫し目を閉じた。





✝️





昨日家に貼られていた紙には、集合場所は城の3階、書斎と書かれていた。


(書斎って、面接をするスペースあったっけ?)


少し怪訝な顔をして歩いていると、城門へ辿り着いた。


「証明するものを提出してください。」


警護に止められる。


(あんなことがあった後だ、流石に厳重な警戒が敷かれているな...

ええと、証明するもの...)


ブライは持っていた紙に判子が押されていることに気がついた。

これを見せれば大丈夫な筈だ。


「私は面接を受けに来た者です。」


そういってブライは紙を手渡す。


「ん...確かにこれはサルガタナスさんの印だ。」


兵士は紙をブライに返すと、顔をまじまじと覗き込んだ。


「ということは、君が唯一の第一試験突破者か...」


「唯一...?」


「ああ、あの日の受験者達は殆どがテロリスト、そうでない者は逃げたか、若しくは死んだかだ。」


城門が開き、中へ進もうとすると背中をポンと叩かれた。


「つまり君は勇敢に戦ったってことだ。期待している。」


「あ、ありがとうございます。」


城へ入ると、中は結構な人で賑わっていた。

制服を着た役員達が右へ左へ走り回っている。


(うわぁ...忙しそうだ...)


王朝が成立してまだ二週間と少し。

浮き彫りとなった国防をはじめ法律や前王政の引き継ぎやらで忙しいのだろう。


中央の階段を上がり3階へ足を踏み入れる。


フカフカの絨毯が敷かれた3階は、何か木造の懐かしい香りが漂っていた。

1階や2階とは違って人は一人もいない。


紙に記されていたマップを見ながら書斎へ到着するまで、誰ともすれ違わなかった。


「ここでいいんだよな...」


饕餮文が刻まれた重量感のあるドアノブに手を掛けた。

ひんやりと冷たい。


そしてゆっくりと回して扉を引いたが、びくともしなかった。


(押しか...?)


否。押しても全く動かない。


「なんだこれ、かってぇなぁ!!」


ブライは再度扉を思い切り引いた。


人間は声を張ると瞬間的な力が増幅するらしい。

扉はバキッと音を出して勢いよく開いた。


「ふぅ、」


部屋の中を覗くと、目が眩むほどの膨大な本が積み上げられていた。

汗牛充棟、載籍浩瀚(さいせきこうかん)


「すげえ量の本...」


中へ足を踏み入れ、周りを見回してみる。

政治、辞典類、様座な本があったが、取り分け多いのは歴史書だった。




「いい雄叫びでしたね。」


「わっ!」


突然、窓際の長机から声がして飛び上がってしまった。


「あの扉を開けるとは、中々の怪力です。」


「あの、あなたは...」


話しかけてきた真っ黒い髪をした眼鏡の男は此方を振り向いた。


「よくぞお越しくださりました、私が面接官のサルガタナスです。」


「サルガタナス...」


王権戦争での情景が脳裏に浮かぶ。

目の前の男はザギの亡骸を高々と掲げていた男だ。


「どうかなさいましたか?13番、ブライ・フライブルクさん。」


「い、いえ...」


ブライは気を取り直して促された椅子に腰掛けた。


「では、早速始めましょうか。」


サルガタナスは机に置いてあった本をパシッと閉じ、脇へ追いやった。

そして、両肘を机に置き、目線を合わせた。


「まず、何故兵役に就くことを決めたのですか。」


(何故...か。

そんなことは考えたこともない。

ただ、妹共々食いっぱぐれないように...ってだけだからな。)


「生きるためです...

私は体を使った仕事しか出来ませんので...」


「着飾らない率直な回答、素晴らしいですね。」


「アレスから聞きましたよ、この前のテロで唯一、貴方は受験者にして勇敢にも敵に立ち向かったと。」


「...それは違うと...思います。」


少し目を下に向けた。

あの日、目の前で崩れていった受験者達を思い出す。


「敵に立ち向かったのは私だけではありません...

私は同じ受験者達がそうやって死んでいくのを何度も見ました。

命を賭けた、彼らは私なんかよりもよっぽど立派です。」


「では、貴方を代表として、礼を言わせて下さい。

本当に有難う。貴方のお陰で我々は救われたのです。」


少々の沈黙が流れる。


「......私一人では到底勝てませんでした。」


ブライは口を開いた。


「ロズマさん、カレンさん、そして、ヴィレさんも...」


ブライは無意識に呟いてしまったが、冷静に考えれば面接で面接官が知らないような身内を取り出すのはNGだ。


「ヴィレ...石碑に記されていた名...」


しかし、サルタは反応した。


「知っているのですか。」


「英霊達へのせめてもの礼として、私は死んでいった人の名は忘れないようにしていますので。」


ブライは驚いた。

国の偉い方が末端のことまで考えているとは思ってもみなかった。


「彼もきっと喜んでいると思います。」


目の前の面接官は立派な人間だとブライは感じた。


だが、ザギのこと以外にもう一つ訊かなければならないことがあった。


「サルガタナスさん、私は正直羨ましいんです。襲名を行って力を手にいれた人が。」


サルタの目を見つめ返した。

ブライは単純に、襲名というものがリスクを伴う物なのかどうか知りたかった。


もしもノーリスクであのような力が手に入るのならば、世界は不平等な物として受け入れなければならないからだ。


「襲名は、そんなにおめでたい物ではありません。」


「そもそも、襲名の神託を受ける人間は皆、孤独でなければならないのです。」


「孤独...ですか。」


「襲名で力を得た人間は、寿命が著しく長くなります。

つまり、大切な人が皆自分の周りから消えていくのに耐えられる心が必要なのですよ。」


「それに、天上の存在に全てを仕組まれる...

それは、何よりも辛く、苦しいものです。」


再び沈黙が場を包んだ。


「さて、面接の続きをしましょう。」


「...傭兵志願する前は何をされていたのですか。」


そして質問は続けられた。


「...兵士をしていました。カントール王の下で。」


偽っても仕方がない、身の上を全て話すべきだと直感した。

サルガタナスになら話してもいいと思った。


「前王朝の兵士...」


サルタは少し驚いた顔をしたが、すぐに元へ戻った。


ブライはこの後投げ掛けられる様々な詰問を想像した。

下手すればこれは試験を落とされかねないような自白だったかもしれない。


だが、質問は予想外のものだった。


「では、忠誠心はどこへいったのでしょうか。」


「忠誠心......」


「キング・カントールは未だ敗走中です。貴方は彼への忠誠心をそこで捨てた...と、」


「いえ...私が忠誠を誓っていたのは、ザギという人間、ただ一人だけでした。」


「ザギ...?」


「はい。そして彼女は先の戦争において貴方に殺されました。」


サルタはハッとしたような顔をした。


「...わかっています。戦争で敵を殺すのは当たり前ですから。でも、やっぱり心に空いた穴は閉じないんです。」


ブライは込み上げてきた涙を何とか堪えながら坦々と話した。


「でも、今までの会話の中で気づきました。彼女を斃したのが貴方のような素晴らしい人で良かったと...」


「では、忠誠は我々に...」


「はい。これより先は貴方に忠誠を誓います。今度は絶対に失わせやしません。」


サルガタナスは目を瞑り一度頷くと、立ち上がり、ブライに拍手を送った。


「合格です。第一回雇傭試験の記念すべき合格者は、君だ。」


「あ、ありがとうございます。」


ブライは慌てて立ち上がり、一礼をした。


始まるのだ。

ブライの人生の、新しいスタートが。


そして、物語は更に激動のフェーズへと突入する。


サルガタナスは3階から窓の外を見た。

アドラメネクに連れられた一人の男が立っていた。


「ついに還って来ましたか。"彼"が。」





✝️




ブライは晴天の下、鼻唄を歌った。

すっかり心は落ち着き、合格したという事実に胸が躍っていた。


だが、これは一時の偸安(とうあん)に過ぎない。

揃った歯車は、もう止まることはない。

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