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大海の鯱、井の中を知らず  作者: 異端(ヰタン)
雇傭試験
56/85

十八話 帰還

~第5戦紀創成年1/16~


城下町主道沿いのとある居酒屋にて。


この居酒屋は主道に大きく開けたオープン席を設けている。

数ヶ月前にオープンして以降、何故かそこは常に酔っぱらいのオッサンで賑わっている。


それは立地的な問題なのか、それともこの美人店員がいるということに起因しているのか。 




「美人店員って...あら、アレスったらお上手ねぇ。」


少し豊満な体つきをした店員姿の女性がテーブル横に立っている。


「エリオよ、<冗談>を言っている暇が果たしてあるので<しょうか>な?」


アレスは机の上にありとあらゆる食材を巧みに並べ、真っ昼間から酒を飲んでいた。


「なっ、なによ...まだ28だから、まだ時間はあるわよ。」


「お姉ちゃんさぁ、本当に結婚する気ある...?」


アレスの正面に座っていたモロクが、骨付き肉を齧りながら物申した。

成る程美人姉妹という訳だ。

骨付き肉の脂が口周りに付いていても様になる。


「も、勿論あるわよ。ねー?アレス?」


エリオはにこやかな顔でアレスに相槌を促した。


「本当に冗談が好きなんだな。<悪いが>俺は熟女好きではないんだよ。<或いは>...若すぎるのもダメだ。」


「熟女って...だからまだ28!全く、最近の男の感性はどうなってるのかしら!

てか、あんたも25でしょうが!人の事言えないわよ!」


少し声を張りすぎたようで、視線が一点に集まる。

エリオは顔を赤くしてペコペコお辞儀をした。


そして気を取り直してと言わんばかりの咳払いをかまし、


「でも、格好良いなぁって人は一応...いるかな。」


と呟いた。


仕事中にも関わらずこうして世間話に夢中になれるのも、この店の太っ腹な所なのかも知れない。


「どうせ一回店に来た程度の客でしょ。脈無しよ脈無し。」


モロクはジョッキ三本目を注文する。


この前のテロの時に手伝ったお礼として、全額アレスが負担することになっている。


「で、どんな?」


「えっとね、濡烏って言うの?真っ黒い髪の毛でメガネを掛けたイケメンで...」


ガタッとアレスが机に突っ伏した。

同時にモロクがジョッキの中で口を爆発させた。


「なによその反応は...」


「エリオよ、それはうちの参謀の<サルガタナス>だ。それは<猿が笑う>レベルだぞ。」


「プッ!フフフ!サルタに恋って、脈無し中の脈無しじゃないの!キャハハハハ!」


モロクは酒が入っているので少しテンションが高い。


「あの人が噂のサルガタナスさんか...確かにそれは望みが高すぎたわ。」


その時、店の扉を開けて絵に描いたようなオッサン達が入って来た。


「ついに来たわ...」


エリオは何やらただならぬ雰囲気を醸した。


「ん、どうしたの?」


「シーヴァル一味...ここの常連よ。」


エリオは先程とは打ってかわって真剣な表情を浮かべている。


「彼ら、普通のオッサンじゃない。何か悪いことでも...?」


「奴ら...大量の肉を注文するのよ...」


シーヴァル一味、それは店の中では災害と形容されている。

突然やって来て、超大量の肉を一気に注文し、去っていく。


勿論、注文したものは平らげ、お代も払って行くので迷惑という訳ではないが、彼らがやって来た時は厨房が追い付かなくなるのだ。

従ってエリオまで肉を焼く羽目になる。


「しかも最近は大食い対決とかいうのにハマってるらしくて...」


一応、店は繁盛しているし、在庫切れは起こらないのだが、暑苦しくて仕方がない。


「うわ...何か今日は人数が多い気がする...」


そういってエリオは厨房へ駆け込み、中から巨大鉄板を持ち出してきた。


「アレス、何だか面白そうじゃない。」


モロクは席を立ち、大食い会場へ行ってしまった。



「......うーむ、<早いこ>と切り上げて空が<赤色>になるまでには帰れると思っていたが...長くなりそうだ。」


アレスは店員を呼んで机に乱雑に置かれた皿を片付けさせ、空いたスペースに肘を置いて外を眺めた。


街道の往還の中に、見覚えのある人物が歩いていた。


「ん...?あいつ、ついに<象牙>の塔から<峠>越えしてきやがったか...」



そして、この人物の出現から、物語は大きな転機を迎えることになる。


7人の革命軍幹部

サルガタナス、アンジェラ、アドラメネク、モロク、アレス、ヘスティオ。


そして、"最後の一人"。


<"">の登場により、世界は動き出す。





✝️





───久しぶりの感覚だ。


""は部屋に籠り続けていた。

彼らが王権を奪取すべく東奔西走していた間も。


相次ぐテロへの対応に追われていた間も、


""は一歩も部屋から動くことはなかったんだったな。


この踏みしめる道も、すれ違う人々も、吸い込んだ新鮮な外界の空気も。


全てが懐かしい。



街は""が見ていた時よりも随分と繁栄しているようだ。

街路には店が立ち並び、人波は王城へ近づくにつれ多くなっていく。



──旨そうな林檎があるじゃないか。一つ買っていこうかな。


──確か、神様が嫌いな実だったっけ。

いや、この際そんなことはどうでもいいか。


布製の小銭入れを漁る。

たったの15カジャしか無かったが、林檎を買うには何とか足りた。


掌に載せた小銭と林檎を交換する。

ずしりと密度のある重みが二頭筋に伝わってくる。

林檎の冴えた冷温が掌を刺激した。


──さて、王城へ向かうとするか。


ガリッと林檎を齧る。

まるでもぎたてのような新鮮な食感。

滝のように甘い汁が口内へ流れ込んできた。


まるでその奔流に体を奪われてしまうような錯覚に陥った。


──美味い。これで""にも知性が芽生えたのかな。

いやいや、こっちはアンゼル教だ。そんな話、そもそも存在しないじゃないか。


気がつけば人混みを抜け、王城に到着していた。


林檎の芯を道路脇の水路へ捨てた。



──では、お邪魔します。


公園を横切って閉まっている城門の前へ足を運ぶ。

すると、見張りの兵士に止められた。


「何か身分を証明するものを見せて下さい。」


──身分証明...?そんなものは無いよ。


「ではここを通す訳にはいきません。」


──""だ、""。革命軍幹部の。


「申し訳ございません、名前に聞き覚えがない以上、やはりここを通す訳には...」


何事かともう一人見張りの兵士がやってきた。


「すみませんね、この前のテロの影響で取り締まりを厳しくしているのですよ。ですので、何か証明がない限りはお通し出来かねます。」



──そうか。なら良いんだ。


踵を返し、城を後にしようとした瞬間、横から声がした。


「あれ!?""?""だよね!?」


聞き覚えのある少年の声だ。


──アドラメネク...随分と大きくなったな。


アドラメネク、""が革命軍に居た頃は襲名も済んでおらず、まだ幼かった。

昔はよくサルガタナス達と一緒に遊んであげたものだ。


「アドラメネクさん、失礼ですが...その方は...?」


「この人は革命軍幹部の""。俺が証明するから、中に入れてやってくれ。」


それを聞いた兵士はそそくさと脇へ流れ、暫くして城門がゆっくりと開いた。


──城の中へ入るのはいつぶりだろうか。


「え?革命軍になる前に入ったことあるの?」


──ん?まあな。


「やっぱ、""はすげえんだな。」


露骨に嬉しそうな顔をする。

何だか此方までほのぼのした気分になってくる。


──サルガタナスは元気にしているのか?


サルガタナスとは仲間でもあり、良いライバルであった。

""は学者として革命軍に参加していた。

その訳あって、頭脳の面でサルガタナスとはしのぎを削っていた部分があった。


「サルガタナス...アイツは何か面接があるって言ってどっか行ったよ。

というか、もうアイツとは喋ってない。」


──何かあったのかい?


「アイツは最低だ。思い出したくもない。」


──そうか。


城のエントランスに入ると、役員達が物珍しそうに此方に注目した。


──""はそんなに珍しいか。

まあいい、サルガタナスが来るまでここで寛いでおこうかな。


エントランス脇のソファに腰かけた。



自然と口角が上がってしまう。

これからの人類の末路を考えると笑いが止まらない。


""が演出した舞台も、装置も全ての準備は整っていた。


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