八話 ファンファーレ
~役員テント~
「ハッハッハ!テロリストを捕まえたって聞いて来てみたら、とんだうだつが上がらないような兄ちゃんじゃねえか!」
テントの中にはこの男とテロリスト...として捕まったブライの二人が座っていた。
「しかし、さっきのカカシへの一撃は凄まじかったな、確かに未然に防げなかったら大惨事だったか、フハハ!」
男────腕相撲ゾーンにいた役員だ。
どうやら先程の試験会場での一幕を偶然目にしてしまったようで、興味を持たれてしまったらしい。
「そう言えば俺が腕相撲の説明をしていた時も、それはそれは不満そうな顔をしてたもんなぁ、」
男は簡易暖炉に煙草を翳し火を付けた。
「違う、俺はテロリストじゃないって言ってるだろ。」
鉄製の手枷が血管を圧迫する。
嫌疑が晴れるまでこうしてテントの中で軟禁されている訳だ。
「んー...とは言ってもな...王朝のルールでお前の管轄は第一発見者であるロズマ君になってるからな、俺の独断で逃がす訳にはいかないんだよ。」
すると男はポケットから莨奩を取り出し、中から煙草を一本抜いた。
「一本吸うか?昂った心もリラックスできるぜ?」
箱を見ると「colluto(ヴァクティヌ語で内通という意味)」と書いてあった。
大麻草の類いではないようだ。
「ありがとう...でも遠慮しておく。それにリラックス効果はないだろ?」
男は一瞬きょとんとした後、苦笑いしながらその煙草を机の上に置いた。
「ありゃ...エアプ晒しちまったか。というか、兄ちゃん詳しいな...」
「妹がな...やりもしない癖にこういったことに妙に詳しいんだよ。」
ブライは今まさに面接の真っ最中だろうサラを想像して少し口角を上げた。
「...実はさっきカカシゾーンによった時に貰った物なんだ。煙草切らして突っ立ってたら、親切な受験生が箱ごとな。」
そう言った後、男は机の上に置いた煙草を無言で指差した。
「でもこれよ、国が承認してるもんじゃねえよな。」
タバコ草を包む白い紙にはキャッチーな猿のマークが施してあった。
描かれた猿はわんぱくそうな微笑みを湛えていたが、その両目に光は無かった。
「ま、お前が違うって言うんなら俺は別に疑わねえが、手錠を外してやることは出来ん。」
男は沈黙を遮るように話を戻した。
「肝要なのは、自分に嘘をつくなってことだ。例えお前がテロリストでなくともな。」
男がそう言い終わった瞬間、テントの中に二人組が入ってきた。
「ヴィレ、見張りご苦労、もう帰ってくれていいぞ。」
ロズマとカレンだった。
「ん、いや、俺も成り行きが気になるからここに居させてもらうぜ。」
ヴィレと呼ばれた男は立ち上がり、席を空けた。
「そうか、だが話には口出ししないでくれよ。」
「へいへい、」
「さて...13番。」
ロズマは先程男の座っていた正面の席に腰かけた。
そして机の上に置いてあった煙草をゴミ箱に投げ入れた。
「俺とカレンはお前が剣を隠し持っていたことを上に伝えた。
その結果───お前の疑いはほぼ晴れた。」
「そうですか...!」
ブライの表情が少し明るくなった。
だが、ロズマの後ろの壁に凭れているカレンの冷たい目線が妙に気になる。
「だが潔白が証明された訳ではない。剣を隠し持ち、何かを企んでいたのは事実だ。だから、その手錠を外すわけにはいかない。」
ブライは少し目線を落とした。
目の前にいる男の感情が全く読めない。
「おい...じゃあ今回の試験はもうダメってことか...」
家計の為に就職を決意した妹の顔が脳裏を過る。
ブライは、自分が戦闘以外に何も出来ない人間だということを痛いほど分かっていた。
兄妹の引き取り先である親戚の家もじきに戦火の餌食となった。
その後当時14だったブライは必死に職を探したが、悉く失敗に終わったのだ。
そして挙げ句に残ったのが兵役という肉体労働だった。
「俺が...仕事を失う訳にはいかねえ...!」
感情をせき止めていた物が決壊した。
箍が外れたように勢いよく立ち上がり、ロズマの胸ぐらを掴んだ。
...手錠をしている為掴むことは出来なかったが。
「すまない...お前がテロリストである可能性は限りなく低いということは分かっている...だが、こちらも証拠がない状態で拘束を解く訳にはいかないんだよ。」
次にブライの脳裏に浮かんだのは剣を渡してきた少年だった。
(あの少年にさえ出会っていなければ...)
ブライは怒りのやり場に困った。
元凶は剣を隠すのが下手だった自分だ。つまりこの状況において自分の境遇を理解し同情してくれる人間なんていないという事は自明の理だった。
だが、無性に腹が立つ。
「クソが!」
ブライは再度ロズマに掴み掛かり、頭突きをお見舞いしようとした。
すると突然頬に鈍い痛みを覚え、そのままブライは仰向けに倒れた。
(痛えな...誰だ、クソ...)
起き上がり、前方を睨むとそこにはカレンが立っていた。
どうやら自分を殴ったのはカレンらしい。
「バカ!自分のことばっかり考えて...
私達も先の戦争で命賭けで勝ち取った王権を守りたくて必死、だから貴方みたいな人を易々と逃がす訳にはいかないのよ!」
ロズマは少し驚いた。
長年一緒にいた中で自分に対し怒りを表したことのないカレンが、今目の前で13番に対し感情を晒け出しているからだ。
「...」
カレンは怒りが冷めた後、涙ぐんだ目を拭いた。
「ありゃあ...すげえ姉ちゃんだな...
あん時の威勢そのまま...か。」
一部始終を見ていたヴィレは邪魔にならないようにテントの外に向けて煙を吐いた。
✝️
──── 一歩
公園中央に聳える塔の中では、テロリストの存在が示唆されたことにより役員達が一層慌ただしくなっていた。
「あっ、──さん、おかえりなさい。では認証しますのでリストバンドを見せて下さい。」
(ふーん、"こいつ"は──って名前なんだな。
カップシャッフルか...忌々しい革命軍のマークだ。)
「はい、オッケーです。通って良いですよ。」
──── 二歩
(そう言えば二階には奴らがいたな...)
塔内部の階段を通って二階へ行くと、常駐している厄介な二人に見つかってしまう。
(外の階段から上るか。)
ゆっくりと外の非常用らしき石階段を上ってゆく。
二階部に差し掛かり、窓から中を覗くとやはり二人が居た。
(お二人共、パーティーはもうすぐだ...存分に楽しんでくれよ...?)
──── 三歩
塔の屋上に足を踏み入れた。
心地よい風が東から吹く。
(Wind from the far east か...今日は最高の...)
縁の少し盛り上がった所に足を置き、試験会場を見下ろす。
(テロ日和だな^...)
すると、下にいるゴツい男達が一斉に此方を見つめた。
まるで何かを察したかの如く。
(さぁ、オールダイナスティダスト計画を始めよう。)
被っていた顔の皮を剥ぎ取る。
一気に視界が良好になり、南中した日の麗らかな光が一気に目に入り込んだ。
男の皮の下から姿を現したのはピエロの仮面だった。
そして、男は屋上から身を乗り出し首を一度、狂ったように横に振った。
ガクッと音が鳴る。
そして塔の一階部が────堕ちた。
国名である[Vaxtiniea]の意味は文字の通り[ヴァクティヌ人の地域]という意味です。
また、母語はヴァクティヌ語ですが小説化する際に虫が翻訳しています。




