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大海の鯱、井の中を知らず  作者: 異端(ヰタン)
雇傭試験
41/85

三話 ブライの秘技

(さーて、どうしようかねえ...)


手に持った木刀を矯めつ眇めつ眺める。

そして、今度は顔を上げ目の前の竹製のカカシを見る。カカシは丁寧にナイロンで包まれていた。


時刻は7:30。

まだ雇傭試験開始までかなり時間があり、この木刀とあのカカシはテストで使われる物だろう。

勿論試し斬りなんてのは出来なさそうな雰囲気だ。


「これ、本当に斬れるのか...?」

木刀を掌でトントンと叩いてみた。触感で分かる安い奴や。


さて、試験で用いられるだろう機材に若干の不信感を覚えるブライだが、それ以前に政府に対して「ん?」と思うような部分は色々とあった。


例えば、前日にここで暗殺未遂が起きたというのに何食わぬ顔で次の日には試験を行う所。

まぁ何の危惧なしにやって来た俺達も同類なのか。

周りでは如何にも戦士志望といった男達が準備運動を行っている。

ブライも傭兵志望であったので後々ライバルになってくる訳だ。


この雇傭試験には大きく二通りの出願コースがある。

それは傭兵として王国の戦力となるか、役員として運営に携わるか、だ。

そして今日が双方の一次試験で、ここを突破すれば面接による両コース合同の二次試験へ入る。役員コースはその先も派生するらしいが、細かいことはしらん。


役員志望者の試験は城内部で行われるのだろう。

7:00に開城されて以降続々と受験生が城の中へ進んでいる。

そしてブライ達傭兵志望者の試験は王城前の公園で行われる。

敷地はかなり広大で、今いるカカシゾーン以外にもちらほら見えるが何をする為のセットかは見当がつかなかった。


「素振りくらいなら...」


ビニールに包まれている木刀をそのまま構える。持ち手が少し滑るが包装を取れば恐らく怒られるだろう。


そんな事を考えながら剣を腰元へ挿す仕草をする。

まるで納刀するかのように。


周りの屈強な男達を見れば少し体格に劣るブライだったが、彼には一つ、何者にも勝る"技"があった。

何故、前王朝で砲撃部隊隊長であった彼が当時から剣を携えていたのか。

それは──────


突如、眼前のカカシが四方向に弾けたことにより露呈される。

そして周りが驚き呆気にとられている中、ブライの顔面は蒼白となった。


(やっべ...カカシ壊しちまった...)

しかし衝撃の割に木刀は無傷。

理由は、今の一撃が木刀の玉砕覚悟の衝突による物ではないことを証明した。

というか、一撃ではなく一陣と言うべきか。


公園真ん中の噴水辺りに張っているテントから何人かの役員がこちらへやってくる。


ブライはただ単に木刀を尋常ではない速さで振っただけであった。

空気中の分子、ないしは"場"に強引にエネルギーを与えた為か、生暖かい逆風が吹く。


「おいおい、何の騒ぎだァ...?」

金髪の男がこちらを睨む。

ガラは悪そうだが運営の服を着ているので恐らく現役の兵。


と、ブライはその隣にいる栗色の髪の女性と目があった。


「あっ」


とその女性がこちらを指差し駆け寄ってきた。


「私、願書受付所にいた者です。見覚えありません?」


「おいカレン、受験生と馴れ馴れしくするな!」

話を遮られた金髪は不機嫌そうに言い放った。


「え...と、一応覚えてはいますが...」

勿論ブライはバッチリと覚えていたのだが逆に何故自分が記憶されているのかが気になった。

「そちらは何故私なんかを...」


「え?いや~中々面白い格好をされていたので...」

カレンという女はクスクスと笑った。


(そうか、そう言えばあの時、サラに服を売り飛ばされてシャツ一枚だったな...)


「で、あのカカシはどうしたんだ。」

金髪がズイっと二人の間に入ってきた。


「えー、素振りを少々...」

正直、ブライ自身も驚いていた。

剣を振るのは本当に久方ぶりで、少し期待はしつつも内心は大した威力も残っていないだろうと思っていたからだ。


「んー...」

金髪は怪訝そうにこちらを見る。


「ねえロズマ、受験生の中に凄い実力がある人がいてもおかしくはないでしょ?」

金髪はロズマという名前らしい。


「んー、確かに可能性はあるが...

っていやそうじゃなくて、勝手に機材を触るなって言いたいんだよ!」


それに関してはブライが完全なる悪だ。

「本当にすいませんでした...」


「意外と潔いな...

で、テメエらもだ!普通人が怒られている横で素振りするかァ!?」


周りの屈強な男達がビクッとした後木刀を置いた。


「まったく...

お前も!」


ロズマが再度こちらを睨みつけた。


「本当にそんな実力があるなら、合格して見せろよ。合格して、国の力になってみろ。」


そう言うとテントの方へ帰っていった。


「ごめんね、彼、実は革命軍が王権を奪った後に入って来た新人なのよ。といっても、貴方達からすれば先輩なんだけど。今日が初仕事で張り切ってるの。許してあげてね。」


カレンが少し頭を下げた。


「いえ、私が調子に乗ったからですよ...」


「フフッ、じゃあまた兵役の時に会いましょうね!」

そう言うとカレンもロズマの後に付いていった。


「(モンスト)うおおおおお」

ブライは軽くガッツポーズをした。

そう、カレンこそが彼が一目惚れした相手だ。

彼女との会話で話し方が兵隊時代に戻っていたことにも本人は気付いていない。


ロズマと彼女の関係も少し気掛かりではあるが、まずは試験に合格しなければ話は始まらない。


「絶対に合格してやる...」





✝️





「えぇ、今回集まった受験生は三百余名。この中から60名を選抜する。

第一回雇傭試験はテストプレイに近い。要は私のような現役の兵士の埋め合わせの為の人員確保だ。つまり"量より質"、厳しい選抜をさせてもらう。だから、今回不合格でも気を落とさず次回また、出願してくれ。」


時刻は9:00

試験開始の宣言が為される。


約三百名の受験生達が一人の男の話に耳を傾けていた。


「私はシンザン。王朝精鋭軍の一隊長にして今回の試験の取締役を任ぜられた者だ。各所に試験行程を記した紙を掲示しておくので各自確認するように。そして試験中に何かあれば私や、横に並んでいる者達に申し付けろ。こいつらも現役の兵士だ、ある程度の対応は出来るだろう。」


シンザンが椅子に腰を下ろし足を組むと、じきに周りの受験生達は漫ろに解散していった。


ブライは入城時に貰ったリストバンドを見て自分の番号を確認した。


<13>


(13番か...)


ブライが入城したのは開城してからかなり早い段階であった。

恐らく番号は受付をした順番、つまり若い番号は意識の高い人間が集まっているということ。


(しまった...)


テント前に掲示されている試験行程を見ると、


『1番~60番、③→⑤→⑥』


と書いてあった。横に写してあるマップで場所を確認する。

③は王城の真裏。因みに先程ブライが素振りをしていた場所は⑤だから次だ。

他の番号の受験生の行程にも目を遣ると、三つずつ試験が行われ、最後は全て⑥の場所、王城正面での試験となっている。


(たぶん各60人グループで絞られた人間が⑥に終結して最後の試験が行われるのだろうな。)





✝️





運営が常駐するテントは地点①~⑥を見渡せる櫓のような場所に設けられていた。


「おい、ロズマ、カレン、結局あのゴタは何だったんだ?」

シンザンが受験生のリストを眺めながら話かける。その鋭い目付きと巨体は座っていても威圧感が凄まじい。


「受験生の一人が素振りでカカシをぶっ壊したらしい。」


ロズマは頬杖をつきながら答えた。どうやら上下意識というものは薄いらしい。


「フハハハハッ!何だそれは、あのカカシはサルタさんが直々に委託した貴重品だってのに、恐れ知らずな奴もいたもんだ!」


「笑ってる場合じゃねぇですぜ。シンザンさん、要監視じゃないっすかね。」

とある男が言った。


「んん、それほどか?フォウル?」


フォウルと呼ばれた男、片膝を立てながら床の縁に座り会場を見下ろしている。

手には三尺程もある長い剣を携えていた。身長は170cm程で少し小柄。


「政府もどうかしてますぜ、昨日テロられたってのに危機感がまるでない。出願も身分証明と少々の個人情報の提出のみって、いくらでも偽装できるだろ。」


低い坦々とした口調で王朝の手抜かりを陳列する。


「要はアイツがテロリストって可能性がある訳か、フォウル。」

ロズマが同調した。


「ふーむ、じゃあ誰か派遣するか...

で、ロズマ、そいつは何番だった?」


「あ...」

ロズマの顔色がみるみる悪くなる。


「オイオイオイ...」

フォウルが頭を抱えた。


「あのぉ、」

カレンがシンザンに近寄り話しかけた。


「私が監視しましょうか?」

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