八話 酒の席
※この作品は未成年飲酒を推奨する物ではありません。ご了承下さい。
戴冠式を明日に控え、夜の城下町は普段以上に賑わいを見せある種の繁華街を匂わせた。
ネオン等の電気技術は発展していないものの、篝火やランプ等の装飾が夥しく設置されているのでそれなりに明るい。
そんな街並みを平均的に見て図体の大きめな男達が突っ切って行く。
いや、一人青年はいるが。
「今日予約しておいた店は中々値が張る高級店だぜ?」
6人程の大人と1人の青年が固まって街の喧騒を抜けていく。
どうやら王城から予約した店への道中らしい。
「オヤっさん太っ腹っすねえ、昨日決めたばかりの打ち上げにそんな高級店を予約してくれるなんてなあ!」
もう既に酒が回っているかの如く男達はご機嫌だ。
それもそう、初仕事にして王城の修理という大業を無事に終えた所だ。弾けたくなるのも仕方ない。
「兄ちゃんは年いくつだっけ?」
男達の内の一人が青年に声をかける。
「俺は15才、だけどまあ学校とやらには行けてないな。」
「学校か...俺等もあんな貴族のお勉強室みたいな所なんか天地がひっくり返っても行ける気がしなかったなあ。」
また男達は顔を見合わせて笑う。
「まあ別に学校なんてモンに固執する気はない、独学でも十分生きていけるんだ。」
青年は男達に言ってのけるが...
「...学校ってどんな所なんだろう、同い年の皆で遊んだり喧嘩したり...楽しそうだよなぁ。」
「ヘッ、心の声はそうは言ってないみたいだぜ?王政府幹部、アドラメネクさんよ、」
オヤっさんとの愛称で呼ばれている頭にバンダナを巻いたこの男、如何にも土木作業員といった厳つい形相をしている。...が根は滅茶苦茶優しいという所までがテンプレだ。
「ホラお前ら、もうすぐ着くぜ。あそこの角を曲がった所にある。」
辺りは王城周辺の華やかな雰囲気とは少し変わり薄暗さと明るさが拮抗したような空間に入っている。
オヤっさんが指差したのはさらに深淵へと続きそうな雰囲気の曲がり角で、案の定路地裏に続く角であった。
「えっ、と...本当にこの付近に高級店が...?」
「...ああそうだ。俺ら7人が酒、肉、米たらふく食い散らせるコース1時間30分!この内容ならどんな店でも高級になるだろうが!」
それを聞いた男達は苦笑いを浮かべる。
オヤっさんの元来の言動から大方予想通りだったのであろうが、やはり落胆は隠しきれない。
「7人で酒を飲むって、俺まだお酒飲めない...」
アドラがボソッと呟く。れっきとした心の声だ。
「それについては問題ねえ。酒はガキん頃から慣れておくに限るぜ?特にお前、結構端正な顔立ちだしモテそうじゃねえか。ハハハ!」
オヤっさんは都合の良い話の転換先を手に入れ、即座に食い付く。
「そうだ、アドラはこれから酒を味方につけていかなきゃならんのだからな!」
アドラの横に居る男が肩に重い手を置いて笑いかける。
「あの、参謀の人...誰だっけ、黒髪眼鏡の...」
男が人差し指で額を擦りながら言う。
「サルガタナスの旦那だろ。」
「あっ、そうそうほら、あの人もきっと酒に強いはすだ。」
「あのクソ眼鏡は気に入らないが、そこまで言うなら今日酒を飲んでみようと思う。」
アドラは表面上クールに振る舞うが、心の声が漏れる体質もありピュアな本性が意外と容易に確認出来る。
「ここだ。」
前を歩いていたオヤっさんが立ち止まる。
その前には、確かに路地裏の中にしては明るく窓から中を見ると少しは繁盛していることが窺えるような店のドアがあった。
こちらに気づいたのだろう、中から店員らしき若い男が外に出てきた。
「昨日予約させてもらった、土木会社多田の者です。」
オヤっさんが出てきた男に話しかけると、男は持っていた紙を確認した。
「あっ、多田様ですね。ではお入り下さい。」
すぐに扉を開け、店の中に入れてくれた。
「あ、結構お客さんも多いみたいだな。」
店の中は厨房と客席を隔てるカウンター、四人席に二人席としっかりした内装をしている。
カウンターの厨房側には一人席の客の応対役なのか若めの男や女が突っ立っている。
「オヤっさん、あの突っ立ってる人はなんでしょうかね、」
土木会社多田の社員が社長に問う。
料理を席まで運んだり注文を承る役は他に居るようで、常に店内を東奔西走する店員を尻目にカウンターに立つ店員は一向に動かない。
「あれは...見張り...じゃねえかな。」
「見張り...?」
「ここの立地を考えると俗にいうアウトロー的な奴等も飯を食いに来ることがあるんじゃねえの。」
オヤっさんは案内してもらったお座敷の奥に座りあぐらをかいた。
座敷は広めで7人包含してまだ3人程座る余裕がある。
「すげえ、何か宴会みたいだな!」
男達の一人が目を輝かせて言う。
「まあ一つ違うとしたら宴会場は区切られてるがここは周りから丸見えだ。酒が入りすぎると恥をかくぜ。」
「...金は大丈夫なのか。」
男達に囲まれる形で座るアドラがオヤっさんに声をかけた。
「なあに余裕も余裕、何せおたくの王朝にウチの会社の永久保障してもらってるんだしな!」
サルタが立てた新制度である王朝眷族制。
企業を王朝に買収してもらい、売上のいくらかを定期的に支払えば永久保障をしてもらえるという仕組み。
因みに永久保障というのは資金援助が主だがや安全保障等もある。
会社の売上が完全に頓挫してしまった場合は王朝の役員を仕向けて復活させるか再生不可能となれば社長社員纏めて王朝役員に雇傭する。
「今のところ反グレらしき奴も来てないみたいだし、お前ら今日この時間だけ羽目外そうや!」
オヤっさんがグラスを掲げる。勿論注文していないので中に酒はないが、氷同士がぶつかる爽快な音が男達の耳を突っ切り場は完全に宴会となった。
男達は終始テンション高く注文を済ませた。内容はよくファミリーレストランで頼むような雑多な物だ。アドラも同様に注文を済ませた。
料理が来るまで適当な世間話を楽しみ、程なくして7人が一斉に注文した大量の料理がテーブルに並べられた。
「うおおおおお!すげえ量だな!」
相当腹が減っていたのだろう、牛飲馬食の勢いで飯を貪り酒を呷り...
15分もせず皿は平らになった。
「ふぅ、食った食った、俺の脳はもう酒と肴しか欲してねえ。」
オヤっさんが店員を呼び、酒を注文する。
まだ食べ放題のタイムリミットは1時間以上ある。
「...酒に酔って裸一貫で踊るおっさんとかよく本で見るけと、絶対あんなことにはならない気がする。」
アドラは目の前に注がれたビールを眺めながら呟く。
「まあ飲んでみ。意外とそーでもねぇーぞ!(こわいにいさん)」
「だってなあ、そこにいるヤスは前飲んだ時...」
数本の空瓶を机に並べたオヤっさんが笑いながら話す。
「や、やめろ、これ以上言ったら例えオヤっさんといえど...」
ヤスという男はどうやら酒に強くないらしく、以前に途轍もない黒歴史を生んだらしい。それは酔いからなのか羞恥からなのかもう既に頬が赤い。
「...よし。」
そう一言呟くとアドラはコップを乱暴に握りビールを喉に流し込んだ。
...そして机に突っ伏した。
「え?おいアドラ、弱くないか...」
隣にいた男が一言発すると会場はどっと盛り上がった。
「やっぱ早かったかー。」
「まあ仕方ねえ。寝かせておけ、酒に強い俺が後で運んでおく。」
オヤっさんは酒豪らしく何本もの空瓶が周りに転がっていた。
✝️
✝️
「水の呼吸────────」
恥ずかしい恥ずかしい。
先述の通り周りの席からも丸見えの座敷で、ヤスが注文した千歳飴を握る。
「いいぞいいぞヤス!」
どうやら酒が回った下戸のヤスの一人劇場が行われるらしい。
土木会社多田のメンバーのみならず店員や周りの客も注目している。
「全集中、水の呼吸...」
千歳飴を腰に構えて体を曲げる。
どうやら体の方向から見て柱を斬ろうとしているらしい。
しかしヤスと柱の距離はどうみても千歳飴では届かない。
「十二の型ッ!」
「じゅっ、十二の型だとぉ!?」
周りの客が少しざわついた。
がそれ以上に驚いたのは土木会社多田の社員共。
「おいそれはやめておけ...それだと彼の製糸場をよろしくした名前のアイツより...」
「洗脳されたメス豚共に大バッシングを受けることになるぞ!いいのか!」
「アニメ化が遠退くぞ!」
「なろうの作品がクソだというレッテルが更に決定的な物になってしまうんだぞヤス!」
口々に水の呼吸を止めるべく讒謗が放たれる。こいつらも大分酒が回っているらしい。
その時、
「お前ら黙りやがれ!メタ発言で笑いをとろうとするのは王道で笑いを取れない文盲がやることだ!」
酒瓶を片手に持ったオヤっさんが声を張り上げる。
当人のヤスも一度愚行を中断し、オヤっさんを見つめる。
「犯人はヤスじゃねえ。
...ヤス、お前は正しい。お前のやりたいことをやれ!!」
ヤスの目が燦然と煌めいた。
そして先程の構えに戻る。
会場も息をのみ一点に彼を見つめる。
「水の呼吸...十二の型ッ!」
(ゴクリ...)
「"ポロロッカ現象ッッッ!!!"」
そう言うとヤスは口でボイスパーカッションの如く水の流れを再現し、流線形のフォルムで柱との間合いを詰め、一振り。叩き切った。
のは千歳飴だ。
あそこまで溜めておいて余りパッとしないネタ、眼前で行われる奇行、会場全員が障碍者芸人に対して抱くあの感情になったのだ。
永劫の静寂の中、一定の物理法則に従って割れた千歳飴は空中を游泳する。
そして今店に入ってきたとみられる集団中の一人の顔面に一直線突き刺さった。
その男はタンクトップ姿、三角筋に刺青と如何にもヤバそうな見た目をしている。
その日、オヤっさんははっきりとした意識の中、会場が凍りついたのを感じた。
と同時にこれから起こるであろう惨劇を脳の中でシミュレーションしたが、予測可能回避不可能だということは自明の理だということに気付く。
オヤっさんは焼酎を瓶から直に一口流した。
まあ自己諧謔ネタも文盲の得意技なんですけどもね、




