二話 改変
戴冠式を明後日に控え、城下町は増して賑わいを見せる。
自分の店に飾り付けをし、客引きの準備をしている人間も居れば遠方から遥々やって来たのだろうか宿を探し歩く人間も居る。
王城は元々大した傷は無かったと言えば無かったのだが、戴冠式には万全を期して臨むとのサルタの裁量により只今急ピッチで修理が行われている。
王城入口すぐのエントランスでは戴冠式の盛り上げ役、パレードの花形の芸者達がミーティングを行っている。
勿論企画者はサルタであり、明後日の戴冠式からその翌日の兵役試験までの取締役もこの男。
「本番は我らが王朝の威厳と経済力を示すことも含めて盛大に執り行う。君達はその花形として、国民を大いに盛り上げてほしい。」
サルタが階段踊り場から芸者達を見下ろし激励する。
報酬が弾んでいるのだろう、芸者達はやる気に満ちている様子だ。
「君達も明後日に向けて万全の態勢で臨むように。
では、ここで解散とするが是非活気ある我が城下町を見学していってくれ。」
サルタはそう言い切ると踊り場から一階部に降り会議室に飛び込んだ。
そして直ぐ様ソファに倒れ込む。
「あら、サルタじゃない...と思ったら私には目も暮れず床に臥すとは。」
「何だアンジェラ、居たのか...」
サルタは俯せになりながら返事をする。
「でも今日はまだ大事な務めがあるんでしょ?」
アンジェラは長机に配置された菓子を食っている。
「そうだが...まだ朝だ、例の任務は午後から...アンジェラ、君にも同行してもらうぞ。」
と言うとサルタは意識を閉じた。
「へいへい、分かってますよ...」
午前8時過ぎ、会議室はアンジェラの食う煎餅の音のみが響く。
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王城の裏では、城の改修工事と戴冠式に向けた準備がせっせと遂行されていた。
そして改修工事に何故かアドラが従事している。
「いや~、本当に助かるよ兄ちゃん...」
既に作業服は汚れきっている男達が額を拭う。
「へっ、途端に戦争が終わっちまって力を持ち腐れてた所だ、これくらい余裕よ。」
アドラは十八番の血流操作により瞬間的に指定部位のフィジカルパワーを飛躍的に上昇させることが出来る。
それを上手く活用すると、例えば重い瓦礫の撤去作業等には華が咲くのである。
「この調子じゃあ明後日には楽勝で終わりそうだで、どうだ?兄ちゃん、俺らでパァッと打ち上げってのは。」
見たところ発言した男は業者の偉い方らしく周りの男達が一斉に賛同する。
「...お断りしておく。」
瓦礫を運び終わったアドラは後は削れた城壁を修復するだけだと男達に合図を送る。
「とは言ったものの、本当は行きたいんだが...やはりお金の問題もあるしここは遠慮した方が...」
アドラは心の声が駄々漏れであるのも十八番だ。
「なあに、案ずることはねえ。何せあの眼鏡の御仁からたんまりとコレは出してもらってるんでな!」
男が指でOKマークを示すと周りはどっと大笑いする。
アドラは男達の気前の良さに面食らったが、勢いに流され首を縦に振る。
「よっしゃ!そうと決まったら今は仕事に専念だ!打ち上げは明日の夜だ!お前ら、それまでに仕事、片付けるぞ!」
男達は暑苦しくも氤氲に、雄叫びを挙げる。
アドラは汗を拭いながら、苦笑する。
(あのクソ忌々しい眼鏡野郎とは大違いだぜ...これが、友情って奴なのか...?)
今度は恥じらいもありアドラは心の声が男達に聞こえぬよう口を思い切り塞いだ。
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そしてアドラと修理業者の男達の横、王城中庭では戴冠式の一アトラクションの準備が行われていた。
その様子を王城の一階部広間、中庭方面は一面ガラス張りになっている場所から見学する少女が居た。
広間は王城の各部屋からの通行ルートとして位置している為常に役人達が行き交い何かとバタバタしている。
そんな状況で暢気に休憩出来る御身分であらせられる少女とは幹部にして救護班長のヘスティオ。
ヘスは観葉植物が陳列された大窓付近に座りじっと"アトラクション"が出来ていく様を見ていた。
(あれは、確か剣でスパッてやる奴だっけかなぁ...)
ヘス、弱冠13才にして革命軍の戦線に立たされて来た。
勿論の如く全うな教育など受けている筈も無く、その知識は戦争と隣り合わせで生を数えてきた者そのものだ。
目の前で用意されているのが戴冠式の翌日に計画されている第一回雇傭試験の設備だということは知りもしない。
これまたサルタの妙案により雇傭試験の設備を一時的にアトラクション化し、翌日の雇傭試験までの準備のロスタイムをカットしつつ戴冠式に賑わいを持たせる役目の一石二鳥を図っている。
(あっ、あれは兵士達が一対一の訓練をする時の土俵...かなあ?)
何せこの年齢の女の子は眼前で用意されていく新しい物に目がないのである。
そうこうしていると、昼を知らせるベルが鳴った。
サルタは時間に特にうるさい性格であり、王権を握るやいなや真っ先にこのベルで時刻を知らせるという設備を整えたのである。
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~一階会議室~
サルタとアンジェラは特に会話を交わすことなく無言で昼餉の市販ハンバーガーを頬張っている。節分ではないのだが。
サルタはいち早くハンバーガーを食い終えるとペットボトルの中の水を飲み干し、一息ついた。
「さて...アンジェラ、支度をするぞ。早くハンバーガーを食い終えろ。」
サルタはサングラスを眼鏡の上からかける。オーバーグラスという奴だ。
そして机の上に拳銃を並べた。
「わーってるわよ、もう少しで食べ終わるから。」
アンジェラの食うハンバーガーは特大サイズらしい。
側面からロブスターの背が飛び出ている。
更にシートを敷いてカバーしているものの、摂食部直下はソースで大惨事だ。
「うん!おいしい!」
アンジェラはロブスターの背ごと最後のパン一切れを食い終え、湯呑みを啜る。
そしてシートをソースごと丸めて捨てた。
「...何か、緊張するわね。」
アンジェラは金色の髪を巧く束ねる。
マフィアの嫁がやっていそうな髪型である。
そしてサルタは黒スーツで正装、アンジェラもカッターシャツと黒スカート、タイツと正装である。
「緊張していてどうする。
まぁ語尾に『わ』なんて今時の女は確実に用いないであろう語調になっている所から君が緊張しているということは容易に窺える。」
「うるさいゎ...なぁ」
アンジェラは机に置かれた銃をポケットに入れて立ち上がる。
「そろそろ始まる時刻だな。」
サルタも時計を確認した後、立ち上がる。
「行くぞ。」
サルタが先を行く。
アンジェラは棒にかけていた黒スーツを羽織る。
(この銃を使う...というか、私達の正体がバレないまま事が済むと有難いんだけどねぇ...)
[ディスペンサリーへ。]




