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大海の鯱、井の中を知らず  作者: 異端(ヰタン)
seen_革命後の日々
19/85

五話 経済回転

(美味だ...)


よだれかけを装着し、ナイフとフォークを手に上品なテーブルマナーで中々の大きさのステーキをかっ食う男。


周りの客も突然の新王朝幹部の来店に心底拍子抜けしたことだろう。


「いい食いっぷりじゃねえか!ガッハッハ、」


真っ昼間から酒を飲み宴会気分の中年の集団と相席である。


「そりゃあ、ったりめえよ!このお方はこれからの政治を担うお方だぜ?活力つけとかねえとな!」


顎髯(ひげ)を少し生やし、バンダナを巻いた中年男性がサルタの背中を3発ほどぶっ叩く。


「こら、シーヴァルのおっちゃん、食事の邪魔をしない!」


カウンターの奥で肉を豪快に焼く少し化粧の濃い妖艶な女が(たしな)める。


「なんでぇエリオ、この眼鏡の兄ちゃんもこの雰囲気を楽しんでるんだぜ?」


今度は口髭を生やし、少しダンディーな感じの男が言い返す。


「楽しくないです。」


サルタがステーキを食い終わり、フォークを置いた。


その一言で、中年の集団は凍りついた。


「そ、そりゃあ...すまなかったな...」


サルタの周りに出来ていた人だかりも心なしか興ざめを食らった様子に見える。


「ほ、ほら言ったじゃない、あんたらの宴会ムードを迷惑がる人も居るって、」


エリオというらしい厨房の女も少し苦笑いを浮かべている。


「......」


(これではいきなり新王朝のマイナスイメージに繋がり兼ねないな。

よし...)


サルタは中年集団との相席テーブルの上の注文品リストのメモ書きを一瞥した。


「ん?」


周りの人々は今、店の中で進行中のサルタの行動を一点に注目していた。


サルタは革命軍制服のポケットから財布を取り出し、中から最高通貨単位の1万カジャ(カジャは通貨単位)札を二枚出した。記されていた注文品全てをリカバリーする二枚だ。


それを勢い良くテーブルに叩きつけ中年に向かって言い放つ。


「楽しくないなんて冗談さ。これはほんのお礼だからこれで会計してくれ。釣りはプレゼントだ...」


サルタは手を眼鏡にやりポーズを決める。


次の瞬間周りからワッと歓声が上がり、称賛の嵐。


「あら、あの人、あの中年集団を自由自在に操って...中々イイ男...?」


エリオが獲物を見るような目をサルタに向けた。




✝️




✝️




サルタが城下町の店で中年男性達に崇められているのを物陰から覗く男が一人。


サルタが店から出てくるタイミングを窺い、飛び出す。


「<よぉ>、<用>事は<済んだか><スンタカ>タン?」


「誰がスンタカタンだ、『監視員』アレス。」


アレスは目敏(ざと)くサルタの膨らんだポケットを見つめ、


「<ポケット>には何が入ってるんだ?<ボケッと>突っ立ってないで教えてくれ。」


「───金塊だ。」


「<金塊>!?<一体全体>どこの<近海>に<行ったってんだい>。」


アレスが目を丸くする。


「別に海には行ってない。後、これは今から売りに行って王城の修繕費に充てる。


詳しいことは買取店に向かいながら話そうか。」




✝️




✝️




「へぇ、王城に<金塊部屋>があったのか、じゃあ当分金は<心配ねえや>。」


アレスとサルタは城下町を二人歩いて行くが、既にその顔は広まっているようで今ではちょっとした有名人らしい、人だかりが二人の歩調に合わせて移動する。


「ここが買取店だな、」


辿り着いた店は結構確りとした構えでありまともな店ということは窺い知ることが出来る。


「繁盛しているらしい。」


既に行列とは言えないが列が形成されている。


「なぁサルタ、それよりも後ろの<人だかり>...これでは<一歩下がり>たくても下がれないし...」


店の前の通りが人混みで埋めつくされている。


中には何か売れる物はないかと持ち物を粗探しする人も居る。


(確かにこの人達が万一この店に並んだ場合、相当な迷惑になるが...

どうしたものか、)


そうこうしている間に、順番が回ってきた。


店主がカウンターを挟んで奥に座り客と向き合う形で品物を査定しその場で買い取る。


サルタが金塊をポケットからごろごろ取り出すと周りから歓声が沸いた。


(アレス、ここは私に任せろ。お前は何も喋るなよ。

あと、これを読むフリをしておけ。)


サルタはアレスに耳打ちをし、とある雑誌を手渡した。


「店主、一つ相談がある。」


サルタがカウンターに肘を置き体を乗り出す形で店主の男の耳元でウィスパー...


「相談ですか。承りますよ。」


店主の男は道化の仮面をしている。

妙な男だという印象は一目で植え付けられる。


「我々は新王朝の幹部なのだが、この金塊で得た資金を王城修理費用に充てるつもりなのだ。ここで高額査定なんかが出れば...我々は今後とも有り余った金塊を持ってくるかもしれんな...」


サルタはアレスを横目に見、店主の男の視線を誘導した。


先程アレスに手渡した雑誌は他店舗の買取専門店が載った物であり、表紙には一面にでかでかと宣伝されている。


「フフ...いいでしょう。」


(流石、参謀ともなると頭が切れすぎて(ずるがしこ)さも帯びてくるのですね。)


店主の男は店の奥から黒塗りのボストンバッグを取り出しその場で1万カジャ札の束をみっちりと敷き詰め始めた。


無論、周りの観衆、特にサルタとアレスの後ろに並んでいる人々は目を爛々と輝かせる


「金塊500gが計10個と、宝石類合計0.7億カジャです。」


ドスンとカウンターにボストンバッグが落とし込まれる。


サルタはそれを受け取りながら店主に言った。


「その金塊と宝石で、経済回転、お願いしておきます。」


店主は道化の仮面をつけたまま軽く礼をした。


「さて、アレス帰るぞ...」


「ちょっと待ってくれ。俺も<売りたい>物があったんだった、<無理かい>?」


アレスはカバンをまさぐり始める。


「何だ...売りたい物とは一体...」


「<あったあった>。<雑多ばっか>だけども、この"3Dアクションゲーム"はいい値段するんじゃないか?」


アレスは3Dアクションゲームとやらをカウンターの上に置き、実際にプレイして見せた。


ピンピコピンビコピンビコピンビコピンビコピンビコピンビコピンビコピンビコ...


店主が10エインズ(エインズはカジャの一つ下の通貨単位。100エインズ=1カジャ)硬貨をカウンターにまるで将棋の駒のように指した。


「あっ、床に落ち<てたん>ですね、して<値段>の程は...ささ、<英断>を。」


アレスがゲームの手を止め、店主を円らな瞳で見つめる。


「これだよ。」


店主の男が10エインズ硬貨を指差す。


「ゑ?」


アレスは目が"ゑ"になった。


そしてサルタはただただ溜め息をつくのみ。

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