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それから4年半――
9歳になった私に、ついにアラン殿下の誕生日パーティーへの招待状が届いた。
「つ、ついに……」
「ナタリーは初めて会うものね。ふふ、素敵なお方よ」
ゴクリと招待状を握る私に、色恋を想像したのかお母様が微笑む。
お母様、違うの。これには私の命がかかっているのよーー!!
そんな思いで見つめると、何かを決心したようにお母様がキリッと表情を整えた。
「安心なさい、ナタリー。あなたに似合う最高級のドレスを仕立てるわ」
「えっ、そういうわけじゃ……」
「ふふ、照れなくていいのよ。ナタリーも恋を知る年頃だわ」
「むしろ地味で目立たないやつにして欲しいのにぃ……」
私の声は届かず、お母様はルンタッタと廊下の向こうへ去っていく。
恐らく早速仕立て屋を呼ぶのだろう。
うーーついにアラン殿下と出会っちゃうかーー。
招待状、なかったこととかできないかな。うん、できるわけないよね。
これまで、なるべく王太子が出席するようなお茶会は出席を避けていた。
それこそ腹痛とか頭痛とか使いうる限りの仮病を用いたけれど、王太子直々の招待状は断れるわけがない。
今ここで回避したところで、いつかは避けられないだろうしなぁ。
このお茶会のせいで、5年後死ぬことになったらどうしよう。とほほ。
4年半、今日までの努力は涙なしでは語れない。
遊びたい盛りの5歳児だというのに、やりたくもない楽器、お裁縫、料理、武術を大好きー!とうそぶいて続けてきたのだ。
この努力、どうか無駄になりませんように!
あわよくば、アラン殿下が体調を崩して中止になりますように!
とんでもなく不敬なことを願った私だけど、願いは虚しくその日は来てしまった。
こ、ここが王宮……。
ゲーム内で目にしたことはあったけれど、実物を目にすると口をあんぐりと開けてしまう。
めちゃくちゃにでかいし、豪華絢爛だし、なんというか色々規模がおかしい。
「どうしたの? ナタリー。緊張かしら」
微笑みながらお母様は私の開いたままの口を優しく閉じてくれる。
「心配しなくてもナタリーは世界一可愛いわ。王子様も見初めてくれるはずよ」
「別に興味ないもの」
「あらあら照れちゃって」
私の薄ピンクの可愛らしいドレスを撫でながら、お母様はくすくすと笑う。
お母様は相当な恋愛脳で、私が何を言ったところで通じない。
そんなお母様のことを可愛らしいとも思うけれど、どうか私を死の道へと引っ張るのだけは勘弁して欲しい。
けれど前世の話をするわけにもいかなくて、小さなため息をこっそりと吐いた。
お母様と共に門を抜けて案内されるままに進むと、庭園には既にたくさんの人が集まっていた。
季節の色とりどりの花が計算し尽くされた配置に植え込まれた庭は、感嘆ものだった。
「少し挨拶してくるから、ナタリーもおしゃべりしてきなさい」
「えっ、もう行っちゃうの」
「また戻ってくるわね」
あっさり大人たちの談笑に加わってしまったお母様の後ろ姿を名残惜しむように見つめる。
お母様は恋愛脳な上にゴシップ好きだ。
ネタを仕入れにいったのだろう。
こういったパーティーでは大人と子供に別れて楽しむのが普通だ。
大人だけでなく、子供たちもそれぞれ輪を作って楽しそうに話している。
いいなー楽しそう……。
今までアランと会う機会避けるためにお茶会を断っていたせいで、私には友達がいない。
なんというか、うん。加わりづらい。
仕方なく美味しそうなお菓子をむしゃむしゃ食べていると、庭の端っこで丸まってる赤毛の男の子を見つけた。