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ゲームの中では確かナタリーがアランにベタ惚れで、ヒロインに奪われそうになってもアランに縋って縋って縋り付いて、ひどく惨めに、そりゃあもう可哀想なくらいだったけれど、今の私はアランと出会っていない。
というか『あの』アランの本性を知っていたら、きっと恋なんてしない。
このままアランに恋をせず、婚約者にならなければうまくまとまったりしないだろうか。
そんな簡単な話じゃないのかもと思いつつも、何も材料がない分、そう考えるしかない。
「あとは……とりあえず、魔力封印された時のために武術も習おうかなあ」
神回避への努力は惜しまないつもりだけど、回避できなかった場合のことも考えといて損はないよね。
公爵家の令嬢が武術を習いたいなんて恐らくOKは出ないけれど、幸い、お兄様は武術を嗜んでいる。
護身術を教えて欲しいと頼めば、引き受けてくれるはずだ。
まだお兄様も8歳なので腕前はそんなにかもしれないけど、これから一緒に成長すれば問題なし!
あとは島流しで1人になった時に問題ないように、何事も1人でこなせるようになっておきたいな。
今までのナタリーは何から何まで全て侍女任せだった。
ナタリーというか、公爵令嬢というのはそういうものだ。
でもいつか公爵令嬢ではない未来が来てしまうかもしれない私にとって、世間知らずは死活問題。
特に前世でも料理は大してしてこなかった。
料理長に頼み込んで手伝いをさせてもらったりしよう。
あとはお裁縫とか、いわゆる女の子らしい趣味を前世では持ってこなかった。
手に職をってわけじゃないけど、できて損はない。
今までは駄々をこねて嫌がっていたピアノやヴァイオリンも習って損はないはず!
「なんだかやることいっぱいだなー」
ノートには楽器、お裁縫、料理、武術と拙い字で書かれている。
面倒だけれど、何かあった時のために10年かけてこれを立派に磨くしかない。
そしてアランに会うことがあれば、その時は『恋をしない』これに尽きる。
「ま、会うことがあればだけどね」
19歳のみなみならまだしも、5歳のナタリーにとっては恋など想像に程遠い。
どんなものか興味はあるけれど、死ぬかもしれない相手との恋はさすがにごめんだ。
「アラン以外にも攻略対象はいるものね。あんまり出会わないようにして、出会っても恋はしないんだから」
固い決意を胸に、私は10年後へ向かって歩み始めた。