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――葉月みなみ。

それが私のいわゆる前世の名前だった。

大学2年になったばかりで、東京で一人暮らし。

もともとアニメや漫画が好きだったけれど、バイト先で『乙女ゲーム』なるものをプレイしてからは、めっきりその世界にハマってしまっていた。


プレイした乙女ゲームのジャンルは様々で、現代物から歴史系、ファンタジー、何から何まで大好きだった。

特にツンデレショタ(天才系)が大好きで、乙女ゲームにハマるきっかけでもあった『ときめきヴィスルツ魔導学園☆』の攻略対象であるジュダくんが最推しだった。

闇を感じさせる黒い髪に、吸い込まれそうな夜空色の瞳。

ヒロインの2つ下の彼は飛び級で魔導学園に入学してくるのだが、可愛いのなんのその!


最初は「僕に関わらないでください」「放っておいてくれますか」と、ヒロインと関わることさえ拒否してきて、挨拶もスルー。

めげることなく話しかけ続けると、「あなたと過ごす時間も悪くはないですね」と初めて微笑みを見せ、少しずつ心を開いてくれるようになるのだ。


何よりヒロインと同じくらいの身長で年下キャラだった彼が学園生活中に成長期を迎え、最後の婚約発表スチルでは、色気ダダ漏れの青年へと成長したジュダくんことジュダ様が「いつまで年下扱いする気なんですか?」と低音ボイスで囁いてくる。もちろん腰砕けの破顔のヨダレものだ。控えめに言ってたまらない。


他にも王道(?)王子や、クール系獣人、チャラい騎士、天真爛漫な魔法使いなどなど。

魅力的なキャラクターは多数存在するのだが、なんと『ときめきヴィスルツ魔導学園☆2』とFDが同時発売されることになり、発売日当日の私は浮かれながらバイト帰りに予約しているお店へ向かっていた。


ウッキウキで特典と共に受け取り、どのキャラから攻略するべきかニヤニヤ思案しながら帰っていた時――。

体に何かが打ち付ける衝撃と同時に、自分が車に跳ねられたのだと気づいた。

そしてすぐに死ぬのだと実感した。


どうか神様……走馬灯の代わりにジュダくんの新スチル全て拝ませてください……。


そんなことを神に祈りながら、私は息を引き取った。

――はずだった。


前世の記憶がひと段落したところで、ふっと意識が浮上する。

重い瞼を持ち上げると、涙ぐんで私の顔を覗き込むお母様と目があった。

瞬間、ブワアっとお母様の目から涙が溢れ出す。


「ああっ、愛しいナタリー!」

「お、おかあさま……?」


ぼんやりと記憶が入り乱れる中、戸惑いながら体を起こす。

けれどその体はお兄様の手によって、やんわりとベッドへ押し戻された。

「ナタリー、僕のことがわかるかい?」

「うん、ディートお兄様……」


お兄様が少しだけ安心したように瞳の緊張感を緩ませる。

そこでようやく気づいたのだけれど、私のベッドの周りには家族が集まっていた。

なんとおばあさまもおじいさまも。


どうやら前世の記憶を思い出してる間、ぐっすりと眠ってしまっていたらしい。

そりゃ躓いて転んだだけで意識失ったら驚きもするか。

家族に蝶よ花よと育てられたナタリーだし。


19歳の私が目覚めてしまったせいか、前世の記憶が蘇る前よりも些か思考が大人びてしまったことは、今は置いておこう。

ボロが出ないように気をつけながら、私が目覚めたことに喜ぶ家族に恐る恐る声をかけた。


「わたくし、どうなったの?」

「恐れながら、ナタリー様は転んだ拍子に頭をぶつけられ、3日間眠っておいででした」

「み、みっかも??」

「お医者様はそのうち目を覚ますとの事でしたが、不安で堪らなかったのです」


侍女のユーリは責任を感じているのか、申し訳なさそうに涙をぬぐいながら答えた。


私が『ときめきヴィスルツ魔導学園☆』のことを熱く思い出している間にみんなを悲しませてしまっていたとは。申し訳なさすぎる。


「心配をかけてしまって、ごめんなさい。でもわたくし、大丈夫よ」

「真っ先に私たちの心配とは愛しいナタリーは心優しい子だね。だが明日お医者様に診てもらうまでは安静にしていなさい」


これまた涙ぐんだお父様が、そう言って私の頭を撫でてくれた。

その優しい体温は、私を安心させるものだ。


「わかったわ、お父様」


何か食べたいものはあるかなど心配してくれる両親たちと一通り会話を済ませ、部屋に1人になる。


さて……。


むくりと私は起き上がると、眠っていたせいで軋む体を伸ばしながら、羽ペンとノートを引っ張り出した。

そこに状況を整理する。



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