第七十九話 兄は超絶シスコンという不治の病にかかっている
春虎が秋護の介抱をしながら、ふと疑問に思ったことを口にした。
「ところで……、どうしてここにいるの?」
『ふはは!!よくぞ聞いてくれた、愛しのはるこ!!俺は、お前を追って世界を渡ったんだ!!』
春虎の質問に何故か日本語で返してきた弥生の言葉に首を傾げていると、弥生は何故、どうやってここにいるのかを事細かに話し始めた。
『あの日、はるこが海に落ちるのが見えた俺は、急いで後を追って海に飛び込んだんだ。だけど、海にははるこが落ちた痕跡が一つもなかった。海から上がって、丘を調べると謎の指輪が落ちていたんだ。それを黎斗に調べさせたところ、弱い精霊……、妖精の気配を感じたと言うんだ。だから、黎斗に命じて、その妖精を追ったんだ』
弥生の話はこうだった。
春虎が、妖精の仕業で異世界に連れ去られたことを知った弥生は、直ぐに依頼人の城を拘束した。拘束した後も、意味のわからないことを口走っていたため、大人しくさせた後に、実家に緊急連絡をしたのだ。
直ぐに、家の者が駆けつけることが決まった。しかし、弥生は今すぐにでも春虎を追いかけたかったが、引き継ぎをしなければいけなかったためイライラを黎斗にぶつけて、到着を待ったのだ。
その後、到着した上忍に全てを任せて弥生は春虎を追いかけるべく力を施行したのだ。
黒麒麟の神力を使って、微かに残っていた痕跡から春虎を追いかけて異世界に渡ったというのだ。
しかし、渡った先で春虎の気を探したがどこにも春虎が存在していなかったのだ。
黎斗曰く、春虎がこちらの世界に到着するよりも前にたどり着いてしまった可能性があると。
それを聞いた弥生は、この世界について調べることにしたのだ。
そのついでに、春虎を拐った弱い妖精を血眼で探し出して後に、ブチのめしたのは言うまでもないが、そのことは春虎には黙っていた。
その後、異世界で生活する上で特に困っていたわけではなかったが、利用できそうないいカモを見つけた弥生は、そのカモを上手く利用して情報収集をしたのだ。
そのカモそこ、エドアルトールだった。
偶然知り合った、エドアルトールの助手をしつつ春虎の到着を待った。
女性に化けていた理由については、この方が色々と都合が良かったからとだけ説明した。
そして、エドアルトールの優秀な美女助手として一ヶ月の時が過ぎたとき、とうとう春虎がこちらの世界にやってきたのだ。
しかし、直ぐにでも迎えに行きたかったが、運が悪いことにエドアルトールの実験の後始末に追われてしまい、すぐには動けなかったのだ。
そうこうしているうちに、春虎は再び海に出てしまったのだ。
弥生は、春虎にこう説明したのだ。
しかし、話には続きがあったのだ。
春虎には教えていなかったが、弥生にはある企みがあった。
春虎が、航海から帰ってきた時に、陥っていた厄介な問題についてだ。
そう、春虎を溺愛する弥生にとっては好都合なことでもあったのだ。
呪いの効果で、可愛い春虎が生涯誰とも結ばれずに、ずっと自分のそばにいてくれるチャンスが訪れたと、弥生はゲスいことを考えたのだ。
弥生的には、弱くて頭お花畑のウィリアムがどう頑張っても春虎に好かれることはないと判断した結果、呪いを利用しようと考えたのだ。
こうして、春虎がラジタリウスに出かけている間に、黎斗に無茶な命令をして目的の呪いの腕輪を春虎たちよりも先に見つけ出していたのだ。
休暇を申請した弥生に、エドアルトールは渋い顔をして中々許可をくれなかったが、前回の実験の尻拭いをさせられたことを持ち出して、上手く丸め込んだのだ。
傍から見れば、恐喝に近いものだったが。
こうして、黎斗の不眠不休の苦労のお陰で、あっさりと呪いの腕輪を手に入れていたのだ。
都合のいい部分だけを説明し終わった弥生は、にこやかに、しかし、黎斗から見ればドス黒いものが滲む笑顔で春虎に言ったのだ。
『という訳で、俺はお前を追ってここまで来たんだ。よし、一緒に家に帰ろう。おっと、その前にはるこに渡したいものがあるんだ』
『はぁ。にいのそういうところ……。もう、黒ちゃん無理させたみたいでごめんね』
『いいえ、私は主様の忠実な犬です。なので、大丈夫です。はい、全然大丈夫なんです……』
全然大丈夫そうでない、ハイライトの消えた瞳で黎斗はそう言ったのだった。
そんな、二人のやり取りに割って入った弥生は、有無を言わせずに春虎の細い手首に呪いの腕輪をそっと着けてから、とてもいい笑顔で誰にも聞こえないような小さな声で言ったのだった。
『よし、全ては俺の手の上だ』




