第六十四話 新たな問題発生か?
その後、全員がなんとも言えない表情でそれぞれの部屋に戻っていった。
春虎は、普段着に着替えた後にレオールの部屋に向かった。
ノックをするとレオールが扉を開けて春虎を中に招き入れた。春虎は、その場にたったまま要件を聞いた。
「レオールさん、それで聞いておきたいことってなんですか?」
「そのことだが、先程の会話で解決した。リアの本来の性別を知っているのが他にいるのか確認したかったんだよ」
「そうでしたか。でも、副船長はいつ気が付いたんだろう?」
「あの腹黒副船長のことだから、はじめから気が付いていた可能性はあるな……」
「そうなんでしょうか?」
考えても仕方がないということで、この話はここまでとして春虎は夕食の支度のためキッチンに向かった。
夕食の準備が終わった後に、全員に声を掛けると今回はウィリアムも食堂に現れた。
しかし、その顔色は悪かった。春虎は、今朝出てこなかったのは、具合が悪いと考えて、ウィリアムのことを心配して声を掛けた。
「船長大丈夫ですか?もしかして朝から体調が悪かったんですか?ご飯はもっと食べやすい軽いものに変えますか?」
体調を心配し、気にかけてくれる春虎に、ウィリアムは半泣きで言った。
「ハル~。昨日はごめん。俺、ちょっと焦っていたところがあって。詳しくは言えないけど、ここを早く離れて、イグニスに戻りたかったんだ。言い過ぎたって反省している。本当にごめん!!」
そう言って、ガバっと頭を下げて春虎に謝罪した。
春虎は、分かっていますよと言った表情でウィリアムを見た。ユリウスと秋護は、確実に春虎は誤解を深めたと考えて温い表情で二人を眺めていたが、敢えてツッコまなかった。
そして、呪いの影響なのかレオールに一歩も二歩も出遅れてしまっていることに、トホホな気分で食事を黙々と取るのだった。
翌日は、王立図書館に写本に出かけた。
秋護は魔術の自主練をすると言って、家に残った。
ユリウスは、情報収集をすると言って一人で行ってしまった。
残された三人は、いつもの通りに写しの作業を進めた。ただし、レオールから春虎に向ける熱のこもった視線が注がれるという自体になっていたが、残念なウィリアムはそれには気が付かずに、昨日仲直りができたとご機嫌で春虎をニコニコと眺めていた。
こうして、一悶着も二悶着もあったが数日後無事に写しの作業を終えた春虎は、イグニス王国に戻るために準備を進めていた。
お世話になったシェリアに今までのお礼と別れの挨拶をした。シェリアも春虎のお陰で店が繁盛したと言ってお互いに別れを惜しんだ。
出発は明日ということで、最後の夕食は腕によりをかけた。
レオールは、最後の夜だと言うのに別れを惜しむ素振りもなく、気持ちを聞いたユリウスと秋護は首を傾げていた。
翌日、お世話になったと四人がレオールの家を後にしようとした時何故かレオールも四人のあとに続いて馬車乗り場に向かった。
その手には、何故か旅行用に使うトランクがあった。
嫌な予感に表情を引き攣らせたユリウスは敢えて言った。
「今まで本当にありがとう。見送りはここまでで結構だ。達者でな」
しかし、レオールはその言葉を聞いて何故か不思議そうな表情をした。そして、爆弾発言を投下した。
「何を言っている。私がリアから離れるわけがないだろう?もちろん同行するに決まっている」
差も当然といったようにレオールは言い切った。そして、何を馬鹿なことを言っているんだと言った表情でユリウスを見た。
それを見たユリウスは、勢いよくツッコんだ。
「待て待て!お前はそれでも公爵家の三男だろう?同行なんて無理だろうが!!」
しかし、全く動じた風もなくレオールは言い切った。
「このために、現在請け負っていた仕事はすべて片付けた。だから問題ない。それに、私のことを知ってもらうには、側にいる必要がある。離れるわけがないだろう?」
突然のことに呆けたような春虎とウィリアムを他所に、ユリウスはことの重大さに叫んだ。
「いいわけないだろうが!!!」




