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第五十八話 突然の……

 覚悟を決めて二人が待っている部屋に行くとレオールが至って普通に春虎を迎えた。

 普通にしてくれるのはいいのだが、先程の様子からは想像もできないくらいの普通な様子に拍子抜けした春虎は、レオールの調子に合わせることにして、彼の座るソファーの横に座った。

 

「ダディオス様、バスルームとこちらのワンピースをお貸しいただきありがとうございます。こちらのお洋服は後日お返しに参りますわ」


 春虎が、リユートに向かって言うと、彼は首を振ってから言った。

 

「その服はお嬢さんに差し上げます。どうぞお気にせずに」

「そういう訳にはいきませんわ」


 ワンピースをくれるというリユートに対してもらう理由がないと否定したが、横に座っていたレオールが「今回の騒動で、リアのドレスが駄目になったんだ。貰っておけばいい」と、窓の外の景色見ながら言ってきた。

 着物は少し汚れたが、確認したところ破けてはいなかったので、駄目になったわけではなかったのだが、ここで断ってもリユートは聞き入れてくれないと感じた春虎は、迷惑料ということにして受け取ることにした。

 ただし、今後着る予定は一切ないので箪笥の肥やしではないが影の中に入れっぱなしになることは間違いなかった。

 

「わかりました。それでは、こちらは有り難く頂戴いたしますわ」

「そうしてくれ」

「それでは、レオール様戻りましょうか」


 用はすんだとばかりに、この場を去ろうとした春虎にリユートが声をかけた。

 

「見たところお嬢さんはとても疲れているように思う。少し休んでいくといい」


 リユートの言葉は有難かったが、いつまでもここにいると家で留守番しているみんなが心配するだろうな、と考えていた春虎は丁重にそれを断った。

 先程のこともあり、バスルームを出る前に目覚まし用の丸薬を飲んできたので、家に帰るまでは十分持つと考えての発言だった。

 

 リユートは、レオールが頷いたのを見て無理に引き止めることはしなかった。それでも、家まで送ると馬車に乗るように言ってきたが、これも春虎が断った。

 

「お言葉は有り難いのですが、今は歩きたい気持ちなので……」

「私も歩きたい気持ちだった。だからそこまでしなくてもいい」


 春虎だけではなく、レオールにまで断られたリユートは渋々といった様子で二人の意思を受け入れた。

 去り際に、レオールが「またな」という短い言葉にリユートは泣きそうなそれでいて嬉しそうな複雑な表情で短く「ああ」とだけ返した。

 

 リユートの屋敷を後にした二人は帰路をゆっくりと歩いた。

 色々とレオールに先程のリユートへの対応について聞きたかった春虎は、敢えて送ってもらうことはせずに、家に帰る前に二人っきりで話がしたかったのだが、話をできる雰囲気ではなかった。

 屋敷を出てからのレオールの様子が変だったのだ。やけに春虎のことをちら見してくるのだ。そして、何か言いたそうにしているが一向に話しかけてくる気配がなかった。

 流石に、その挙動不審な行動が気になった春虎は面倒な予感しかしなかったが話しかけることに決めて、レオールの方を見た。

 

「あの、レオール様?何かおっしゃりたいことがあるのではないですか?」


 春虎の問いかけに少し身を固くしたレオールは、数歩無言で歩いた後、急に立ち止まった。隣をあるクレオールが急に立ち止まったため、春虎も歩くのをやめて数歩先で立ち止まりレオールを振り返った。

 そこには、真剣な表情をしたレオールが春虎を見つめている姿があった。

 そして、レオールは少し距離の空いた春虎に近づきその小さな手を取って言った。

 

「君が、正体を隠している事情はわからない。だが、私は男として責任を取るつもりだ。今後も君が正体を隠したいというのであれば、私はそれに協力する。だから私の妻になってくれ。いや、妻になってください。リアを大切にする。世界一幸せにすると誓うよ」


 そう言って、昨日の夜のように春虎の目の前で片膝をついて真剣な瞳で言ってきたのだ。

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