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船長に好かれすぎて困っています。  作者: バナナマヨネーズ


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第五十一話 晩餐会③

「それでは、残りは会場の皆様でお召し上がりくださいませ。他にも、フルーツタルトやチーズケーキ、ショートケーキなどのスイーツもご用意しておりますわ」


 春虎の言葉に、王妃と宰相が食いついた。

 

「「他にも美味しいものがあるのですか!!」」

「お前たち、程々にな。しかし、私ももう一つくらいは頂こうか」

「まぁ!!貴方は先程のパフェを2つも食べたでしょう!!」

「そうですよ!!陛下は食べ過ぎです!!」

「そう言うな、こんなに美味いものを食べずにはいられない」


 国王と王妃、宰相の三人が言い争っている横で、春虎は黙々と用意していたスイーツを準備していく。揉めている三人がどれを食べるのか分からなかったため、一種類ずつ取り置いて他は、会場にいる人で食べてもらうように、係の者に依頼した。

 頼まれた係の者は、見たことのない食べ物に戸惑いながらも、給仕を始めると会場にいた貴族たちが集まりだした。

 そして、係の者からアイスやケーキを取り分けられて、それを口に入れた瞬間に恍惚とした表情をしてため息をついた。

 

 それなりの量を準備してきたはずが、早々に品切れとなった。

 おかわりを求めて、二周目の列に並んでいた人たちは嘆き悲しんだ。

 

 思いの外好評な様子に、呆気にとられていた春虎はこの騒動をどうしたらいいのかレオールに相談することにした。

 

「レオール様……。ここまでとは思っていませんでしたわ。どういたしましょう?」

「うーん。私も、ここまで凄いことになるとは思っていなかった。考えが甘かった。さて、どうしたものか……。いっその事、アイスやケーキのレシピも国に売るというのはどうだろうか?」

「そうですわね。ご自身で作っていただき、美食を目指していただくのが一番ですわね。それでは、早速レシピの販売についてご相談を……」


 そこまで話したところで、レシピを売るという声が聞こえた周囲の貴族たちは獲物を狙う肉食獣のような目で春虎とレオールを見つめていたことに気が付き、声を詰まらせた。

 そこへ、事態を収拾するために宰相が現れて言った。

 

「それでは、リア嬢。改めて、アイスとケーキのレシピの買い取りについて話し合いましょうか。と、言いたいところですが時間も時間なので、明日改めてということでよろしいかな?」

「リア、それでいいな?」

「レオール様、かしこまりました」

「それでは、明日もう一度城に来ていただきましょう。そこで、買取の価格など取り決めたいと思います」


 こうして、明日も城に行くことが急遽決まった。

 

 帰りの馬車の中で、レオールは春虎に改めて礼を言った。

 

「リア、君のおかげで色々上手くいきそうだ」


 馬車の中は二人きりということで、普段の口調に戻した春虎は、首を傾げた。

 

「いろいろですか?」

「ああ、私の酷い噂を覚えているか?」


 そう言われて、ユリウスがいっていた言葉を思い出した。

 

「えっと、子供が好きな変態さん?」

「そう、そういう噂だ。しかし、私は別に子供は好きだが、変な意味ではない。それに、女性が苦手なのは本当だが、だからといって男が好きとか、子供をそういった意味で好きとか言うのでもないんだ。だから、悪いとは思ったが、今回君を少し利用させてもらった。これで、私は普通に女性が好きなノーマルな人種だと、社交界でアピールすることができた」


 レオールの、すまなさそうな表情で説明する姿に、春虎は首をゆるく振った。そして、レオールの目を見ていった。


「別に、僕を使って噂を消そうとしたことはいいです。レオールさんには、シェリアさんのために力を貸してもらいましたし。これで、貸し借りなしということで」

「くくく。ありがとう、君がそういってくれて助かるよ。写しの作業もある中面倒事に巻き込んですまないな」

「いいえ、シェリアさんにマヨネースを販売することを進めたのは僕ですから」

「それじゃあ、お互い様ということで」

「はい」

 

 行きよりも、お互いに砕けた空気で気軽に会話ができるようになったところで、馬車はレオールの自宅に到着した。

 思いの外遅い時間になったが、レオールの家に帰ると、ウィリアム達が心配しながら帰宅を今か今かと待っていた。

 

「お帰り!!どうだった!!うまくいったか!!」

「ハル坊、お疲れ様」

「春虎ちゃん、おかえり~」


 三人が帰宅した春虎に勢いよく駆け寄った。春虎は、苦笑いしながら「ただいま帰りました」と返した。

 

 春虎は、リビングのソファーに腰掛けてからマヨネースのレシピの販売が上手くいったことを説明した。

 春虎の隣に座っていたレオールは、苦笑いの表情で言った。


「私も、居るんだけどな……。まぁ、いい。リア、今日はありがとう。君のおかげで色々と上手くいったよ」

「そんな事ないです。でも、予想以上に、アイスやケーキに食いつきましたね」

「いいや、リアがあの場を上手く切り抜けたから今の状況があるんだ」

「いいえ、僕はただその場で調理しただけです」


 出かける前よりも少し、距離が近くなったように感じた二人のやり取りに、ウィリアムが苛立たしげに割って入った。なにより、いつもなら春虎の隣に座るのはいつもウィリアムだったのに、帰宅後ソファーに座った春虎の隣にウィリアムが座る前に自然に腰掛けたのが気に入らなかったのだ。

 

「おい、キザ野郎。いつまでハルの事そう呼ぶんだよ。それに、近いから離れろ」


 ウィリアムの言葉に肩をすくめてから、ソファーから立ち上がり春虎の前まで移動したレオールは跪くようにしながら、春虎の手を取り見上げる格好で言った。

 

「リア、明日もよろしく頼む。君が女性だったらプロポーズしたいところだが、残念ながら我が国では男同士での婚姻は不可能だ。ああ、非常に残念なことにな」


 レオールの言葉に、目を丸くした春虎は可笑しそうに笑った。

 

「はい。レオール様。明日もどうぞよろしくお願いいたしますわ。ふふふ。それにしても、レオールさんも冗談を言うんですね。でも、あまり面白くないですよ?こんな事冗談でも女性に言っては駄目ですよ?本気にされてしまいますよ」

「そうだな。本気になりそうだが、それも許されないことだしな」


 レオールは、春虎の言葉に曖昧な表情で返した。しかし、その言葉は、微かな声だったためその言葉は誰にも聞かれることはなかった。

 

 しかし、このやり取りにウィリアムが溜まりに溜まったイライラを爆発させたのだった。

 レオールの手をはたき落として言った。

 

「おい!!キザ野郎!!いい加減にしろ!!ちょっと、一緒に出かけたからって馴れ馴れしいぞ!!それに、プップップロポーズだなんて、俺が許さないぞ!!」


 ウィリアムの言葉に、はたき落とされた手を擦りながらレオールも言い返した。

 

「ふん。お前は、リアの父親か?ウィリアムに何か言われる筋合いはない」

「俺は、ハルの……所属している私掠船の船長だぞ!!」

「プライベートに口出す程の関係ではないな」

「くっ!!そんな事ない!!大有だ!!それに、明日もってなんだ!!明日は王立図書館に行って写しの作業の続きをするんだからな。ハル!さっさと終わらせて、イグニス王国に戻るぞ」


 ウィリアムの言葉に、申し訳無さそうな顔をした春虎が明日城に行かなくてはいけないことを説明した。

 

「船長、ごめんなさい。今日献上した、アイスとかケーキのレシピを売ることになってしまって。明日もお城に行かなくてはいけないんです。これが済んだら、急いで写しの作業に取り掛かりますね」


 春虎の言葉を聞いた、ウィリアムは聞き分けのない子供のような態度で言った。

 

「別にハルが行く必要はないだろう。キザ野郎一人に行かせればいい。お前は、依頼のことだけ考えていればいいんだ。他のことに気を取られて仕事が遅くなったら、陛下に迷惑をかけてしまうんだからな」


(なっ、そこまで言うことないでしょう?船長は、陛下に会えなくてイライラしているんだ。それで、私のことチャラチャラした格好で浮かれて晩餐会にいったと思ってるんだき。関係ないレオールさんにも当たって……。もう、好きで女装してお城に行ったんじゃないのに!!もういい!!)


 ウィリアムの言葉に流石に頭にきた春虎は、思いの外感情のない低い声と冷えた眼差しでウィリアムの目を見て言った。 


「国からの依頼の最中に勝手なことをしてしまって反省はしています。しかし、約束をしてしまった以上それを反故にすることもできません。明日レシピの取引が終わりましたら、船長が望む通りに急いで仕事を終わらせます。そうすれば、早くイグニス王国に戻って大切な陛下に会えますもんね」


 春虎の、今まで聞いたことのない低い声と、冷たい視線にウィリアムは、心の中でしまったと思ったが時既に遅く、更にウィリアムもいつもなら誤っているところなのだが、何故かこのときは言い返してしまったのだ。

 

「ああ、そうしてくれ。さっさと仕事を終わらせることだな」

「言われなくてもそうしてます」


 こうして、春虎とウィリアムはお互いにすれ違った状態で初めて大喧嘩をすることになったのだった。

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