第五話 魔法適性
フレッドは、部屋を出てからすぐに戻ってきた。
「待たせたかの。それじゃぁ、早速検査を始めるかの」
「はい。よろしくお願いします」
フレッドは、テーブルの上に持ってきた水晶玉を乗せた。その水晶玉は人の頭ほどの大きさをしていた。
「坊、この水晶玉に両手を乗せてくれ」
「はい」
春虎は、言われたように両手を水晶玉に乗せた。最初はひんやりとしていたが、触ってすぐに、人肌位に温かくなった。そのまま触っていると、フレッドは、「ほうほう」と言いながら、持っていた用紙に何かを書き始めた。
「あの?」
「まぁ、もうちょっと待ってくれ。もうすぐ終わるからの」
そう言って、フレッドは更に何かを書き加えていった。
それから五分ほどしてからフレッドが口を開いた。
「それじゃ、今度は両手をこの用紙においてくれ」
「わかりました」
指示の通りに、今度は両手を先ほどフレッドが何か書いていた用紙の上に乗せた。
すると、不思議なことに用紙に書かれていた文字が勝手に変化していった。
文字の変化が完全に終わったのか、フレッドは用紙から手を離してもいいと春虎にいった。
そして、用紙を見て言った。
「ふむ。なかなかおもしろい結果になったの」
「なんだ?適性があったのか?」
「ふむふむ」
「だから、どうなんだよ」
「馬鹿船長には結果は関係なかろう」
「ある!!もし、適性があるなら、ユーリの下に付かせて勉強させる。そうしたら、俺の船はもっと最強になる!!」
「そう言えば、腹黒は適性持ちだったの」
「で、どうなんだ」
「ほれ」
そう言って、フレッドは用紙を二人に見える様にテーブルに置いた。
【検査結果】
火、適性あり
水、適性あり
土、適性あり
風、適性あり
闇、適性あり
光、適性あり
固有能力を拡張できる可能性あり
用紙に書かれている文字が読めるかと春虎は不安になったが、アルファベットによく似た文字で、文法に多少の違いはあったものの、なんとなく読むことが出来た。
「は!!全属性適性あり!!固有能力ってなんだ?」
「なかなかの逸材のようだの。儂も、固有能力については初めて見るので分からんの」
「あの……、全属性適性ありは珍しいんですか?」
二人の表情から、全属性適性ありが珍しい事なのか気になって聞いてみることにした。すると、ウィリアムが興奮気味に答えてきた。
「ああ。まず、魔法適性がある人間自体が少ない。更に、適性があっても、火、水、土、風の四属性は大抵の人間は適性ありになるが、闇と光はすごく珍しい。うちのユーリも四属性だけだしな」
「うむ。儂も初めて全属性適性ありという人間を見たぞい。それに、固有能力というのも初めて見たぞい」
「そうなんですか」
「リアクション薄いな」
「すいません。今まで魔法とは、本やテレビの中の話だと思っていたので、いまいち実感が無くって。それに、魔法が無くても今まで何の不便もなく暮らせていたので」
「そっか、魔法が無いところから来たって言ってたしな。それなら仕方ない。それにしても、魔法や魔道技術が無くても不便が無かったって言う方が驚きだよ」
「そうですか?ボクの住んでいたところは、科学が発展していましたからな」
「「科学?」」
「えっと、頭のいい人たちがいろいろ研究して、道具で火をおこしたり、夜でも明るいようにしたり、とても早い乗り物を作ったりして、人々が暮らしやすい世の中だったということです。誰でも、使えるものなので、原理は考えたことはなかったので、分からないんですが……」
二人は、春虎の説明で全く想像できていないようで、しきりに首をかしげていた。想像もできないことを考えても仕方ないと考えたフレッドは、固有能力について聞いてきた。
「ふむ。世界は広いということだな。それと、固有能力について心当たりはあるかの?」
「固有能力ですか?」
そう聞かれて、春虎は何かないかと考えを巡らせた。
しかし、特に思い浮かぶことはなかった。
始めは、忍術のことかと考えたが、血筋の人間であれば修行次第で誰でも出来ることなので、固有能力とは言わないと考えて除外して考えていたのだ。
そのため、何も思い浮かばないという結果に至ったのだった。
「すみません。何も思い浮かばないです。固有というからには、ボクだけの力ってことですよね?」
「ああ。そうだの。たとえば、何か武術だったり、一子相伝の秘術を体得していたり、何かないかの?」
フレッドの問いかけで、忍術がそうなのかと思い直してみたが、春虎の中では、忍術はお手軽に使えるものだったので、まさかと思いながらも確認してみることにした。
「えっと、そこまで凄いことではないんですけど、忍術がそうかもしれないと……」
「「ニンジュツ?」」
忍術と聞いた二人は、初めて聞く言葉に首を傾げた。
二人の反応があまりにも、謎単語を聞いたという感じだったので、手っ取り早く実演してみることにした春虎は、向こうの世界では常に発動させていた認識疎外の術を発動させることにした。
二人には、急に春虎は存在が薄くなったように感じられただろう。
「あれ?ハルトラ?」
「おい、坊はどこいった?」
二人は、急に春虎がいなくなったように感じたようで、春虎を探すように周りを探しだした。
二人の反応を見て、忍術の実演は成功と考え、術を解いて二人に話しかけた。
「どうですか?今、ちょっとだけ忍術を使ってみたんですが」
「おおう!」
「坊、姿を消せるのが忍術なのか?」
「えっと、忍術の中の一つと言った感じです」
「ほうほう。これはおもしろいの」
「すごいな!!」
「でも、拡張できる可能性って言うのがよくわからないです」
「まぁ、そのうち分かるかもしれんしの。今は深く考えなくてもいいかの。それじゃ、坊のギルド加入を受理。ギルドタグを準備するからの。明日にでもまた、ギルドに来るようにの」
「ギルドタグですか?」
思いの外あっさりと、加入が認められた。確かに、聞いていた通り、簡単に加入することが出来て安心したが、ギルドタグという聞いたことのない単語が出たので、思わず声に出して言っていた。
すると、ウィリアムは首から下げていた銀色の二枚のプレートを見せてくれた。
「これが、ギルドタグだ。これは、身分証を兼ねているからもらったら常に身に着けているようにな。それに、どの船のクルーかも分かるようになっているからな」
まるで、映画で見たドッグタグみたいだと思った春虎は、ウィリアムのギルドタグをマジマジと観察した。
タグには、名前と、船名が書かれているのが分かった。
あまりにも、じっと見られて居心地が悪くなったのか、ウィリアムは苦笑いをしながら言った。
「お前のも明日にはもらえるんだから、もういいだろう?」
「すっ、すみません。ありがとうございました」
春虎は、慌ててウィリアムから距離を取りつつ、お礼を言った。
「それじゃ、また明日来る」
「おいおい、仕事の報告がまだだろうが!!」
「あぁ、ユーリがそのうち来るはずだから……」
「馬鹿船長が!!その位の仕事も出来んのか」
「じじい!!それ位はできる!!だが面倒くさいだけだ!!」
ウィリアムがそう言ったのと同時に、バン!!と勢いよく部屋の扉が開いた。
そこには、怒り心頭の表情をした、ゴールデン・ウルフの副船長が立っていた。