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第四十八話 晩餐会へ

 ウィリアムが自分の気持を再確認していると、その後ろからユリウスとレオールが顔を出した。ウィリアムのことを不審に思ったレオールが声を掛けようとしたが、ウィリアムの様子からある程度の状況を予測したユリウスがそれを止めた。

 よくわからないものの、今は放って置く事がいいのだと判断したレオールは、姿を現した春虎の全身を見て言った。

 

「見たことのないドレスだが、清楚な感じがよく出ていてとてもいいな。それに、どこからどう見ても可憐な乙女にしか見えない。完璧だ」


 本来は、可憐な乙女で間違いはないのだが、現在は男装が基本となっているため、男装した少女がする女装という、よくわからない状況となっていた。

 レオールから太鼓判を貰った春虎は、軽くお辞儀をした後に、全身を確認するために玄関の鏡を見に行くことを告げてその場を去った。

 その場に残されたユリウスは、レオールとウィリアムを見て、ますます状況が悪くならないかと胃の痛みを感じたが、気のせいだと無理やり自分を納得させて、二人の様子に目を瞑った。

 

 玄関の鏡の前で、全身を確認し着付けにも問題がないと判断した春虎はリビングに戻った。

 出発までにはまだ少し時間があったので、今日の晩餐会について再度確認をしようと、レオールが座るソファーに座った。

 

「レオールさん、今日の晩餐会はどの様な集まりなんですか?」


 レオールは、隣に座る異国情緒あるれる美少女となった春虎を穴が空くほど観察していた。その所作はまさに、どこに出しても恥ずかしくないご令嬢と言って差し支えないほどだった。

 しゃべると、いつもの春虎だったので、質問をされて夢心地の気分から我に返って簡単に説明をした。

 

「今回の晩餐会は、王妃の趣味の食事会がメインだ」

「趣味の食事会ですか?」


 この国の食事がお世辞にも美味しいとは言えないことを思って、趣味の食事会とは?と考えていると、レオールが困った表情になり補足した。

 

「王妃は、以前他国に赴いた際に、そこの料理を気に入って、ラジタリウス王国でも美味しい食事をと考えたそうだが、悲しいことに我が国では食べ物に手を加えてそれをより一層美味しくするという発想に乏しくてな……。その、何だ……我が国は、食べ物自体が美味しいから、敢えて手を加えるという考えには至らずにここまで来ている。今でこそ、塩や砂糖が一般家庭に出回るようになったが、それまでは果物や野菜はそのまま食べる。肉は、軽く炙るといった方法が一般的で、自分で食材を調理するということがなかったのだ。」

「そうだったんですね。では、王妃の努力で味付けという概念が通りだしたというところですか?」

「ああ、ただその調理があまり美味しい方向に向かなかったため、王妃の望む食生活には程遠いというのが現状だ」


 レオールの言葉を聞いて、この国に来てからの微妙は味付けの料理の数々を思い出して、なんとも言えない顔をするゴールデン・ウルフの面々だった。

 

「そこで、王妃はかけるだけでも食材を美味しく出来るマヨネーズに目をつけたと考えられる。これが広がれば、味付けの概念が覆ると考えたんだろう」

「つまり、今日の食事会は本当に美味しいものを食べるための集まりなんですね……」

「そういうことだ。だからこそ、君の作ったあれが役立つんだ」

「そういうことですか。それなら、他に作り置いていたものも提供します」

「悪いな……。しかし、他にも何か作っていたのか?」

「はい。船に残っているみんなに食べてもらおうと、ここで買った食材で作ったお菓子を保存しておいたんです」

「保存?」


 春虎は今までは、亜空魔術で収納している氷の蔵に食べ物をしまっていたが、これだとある程度の時間は問題なかったが、長期間の保存という意味では不完全だったのだ。

 そのため、いろいろと考えた結果と言うか秋護の提案で時間停止機能のついたアイテムボックスのような機能について研究をしたのだ。

 その成果で全属性の魔術を使って亜空魔術で時間を止めることの出来る空間を作ることに成功したのだ。

 秋護曰く、「全属性って言ったらこれくらいのチートは余裕だよ」とのことだった。

 

 現在はその時間停止がされた空間に作った料理や食材を置いておくことにしているので、いつでも作りたてを提供することが出来るようになっていたのだ。

 

 そのことを簡単に説明すると、レオールは頭を抱えた。急にどうしたのかと尋ねると、眉間にシワを寄せたレオールは真剣な表情で忠告をした。

 

「ここでは、魔術自体使えるものが少ない。君のような希少な存在は目をつけられやすい。その力はあまり人には話さないように。今回は、異国から手に入れた希少な魔術道具でものを収納しているという体でいこう」


 あまりにも真剣な表情のレオールに驚きながらも、それに頷いた。晩餐会で、あれを出すときは商店から送られてきたバッグから取り出したように見えるようにすることにした。

 

「そうだ、会場で私は君を何と呼んでよいのだろうか?」


 そう聞かれた春虎は、偽名について考えた。そして、少し考えた後に言った。


「リアでお願いします」

「リア?うん。今の君にとても見合っている」

「春虎ちゃん、どうしてリア?」

「僕の名字が椿だからですよ。捻りもなにもないですけど」

「あああ~、なるほどね。カミーリィヤからリアか。うん、可愛いよ」


 偽名も決まったところで、春虎とはどういう関係の設定にするのかという話になったとき、突然ウィリアムが春虎とレオールの座るソファーの間に入り込んできていった。

 

「そんなもん決まっている。偶然街で知り合って、偶然マヨネーズの提案者だと知った、ただの知り合いだ」


(なんだよ、俺はハルに可愛いとも、似合っているとも全然言えていないっていうのに、簡単に似合うとか、可愛いとか、好きだとか、可愛いとか、可愛いとか……。俺だって、可愛いって言いたいのに、今の春虎を前にすると、全然しゃべれない……。キザ野郎の隣に座るのも阻止できず、こうやって割り込むことしかできないなんて、情けない……。それもこれもハルが可愛すぎるのがいけないんだ!!)


 悶々としながら不機嫌な様子で言ってきたウィリアムを気にすることもせずに、レオールはそこは明言せずに誤魔化すと言ったが、ユリウスは思った。

 

(絶対に、誤魔化しきれないやつだな。何かあったときは、ハル坊に任せるしかないな……)


 そう考えたユリウスは、目線で春虎に何かあったときは頼んだぞと送った。それを見た春虎は、任せてくれといった表情で力強く頷いた。

 

 こうして、春虎とレオールは揃って馬車に乗って城に向かったのだった。

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