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第四十六話 シェリアの危機

 春虎が、調味料を手に入れてから数日。あれから、王立図書館が閉館の日は、ビー商店で看板娘のシェリアとおしゃべりをするのが日課となりつつあった。

 調味料を手に入れた店は、ビー商店と言った。

 看板娘の、シェリア・ビーの祖父が大和国出身で、更に言うとその祖父の実家が大和国でも大きい商店だったため、祖父は勝手に魔石と調味料を物々交換する契約をしていたのだという。

 別にそれでも良かったのだが、実際に商品が入ってきて、いざ売り出そうとしたタイミングで、祖父が他界してしまったため、入ってきた調味料の有効な売り出し方が分からず、困っていたというのだ。

 そこに、春虎がやって来たことでビー商店は活路を見出しとというところだった。

 

 ビー商店に行くときは、手に入れて調味料を使った手料理を手土産にしていたのだが、シェリアが「これを売り出せば、うちの店も繁盛するかも……」と光の消えた瞳で言ったため、心配した春虎は喜んで協力することになった。

 それから、写しの作業がない日に、ビー商店に行き商品開発の手伝いをすることとなった。

 

「ハルトラ君。ありがとう、これで、安定してマヨネーズを提供できそうだわ。試食として、お野菜につけて食べてもらったら、ご近所さんがみんな気に入ってくれてね!!」

「それは良かったです。それに、僕も個人的に商品を卸してもらえることになって嬉しいです。こちらこそありがとうございます」


 そう、商品開発の際に今後この国を離れた後に、醤油などが手に入らなくなることを嘆いていると、シェリアが、春虎個人との契約を提案してくれたのだ。

 その結果、大和国の商店と春虎個人との間での売買が成立した。ビー商店は魔石との物々交換だが、春虎は、商品を普通に通貨で購入することになった。

 イグニス王国の通貨で購入ができるのが心配していると、商店から大丈夫だと返事が来たので、安心してこれからも購入ができると喜んだ。

 しかし、基本船で移動するためどうやって代金を支払い、商品を受け取るのかとシェリアに相談すると、今までどうやって遠い大和国と物々交換できていたのか種明かしをしてくれたのだ。

 

 方法は簡単だった。式紋と呼ばれる、商店のしるしを刻んだ式を通じて注文をしたり、商品を受け取ったりするということだった。

 例えば式紋の上に、欲しいものを書いた紙を置くと、式紋がそれを取り込み、取り込んだ紙は対となる式紋から排出される。

 それを確認した、商店が今度は、対となる式紋に商品を置く。すると、対となるこちらの式紋の上に商品が送られてくるのだ。

 シェリアは、仕組みはよくわからないが、大和国の技術でものをやり取りすることが出来るのだと言った。

 

 商店の人間は、いろいろな国と取引をしているそうで、大抵の国の言葉に対応してくれるというのだからすごいとしか言いようがない。

 こうして、春虎は商店と対になる式紋を手に入れたことで調味料の他にも和の食材を確保することができ、ラジタリウス王国に来た一番の収穫だとひっそりと思ったのだった。

 

 こうして、ラジタリウス王国にマヨネーズ革命が起こったのだった。

 

 しかし、このマヨネーズ革命が原因でウィリアムの呪いが最悪の形で進化するなど誰も思ってはいなかった。

 

 マヨネーズの人気がすごくなり、シェリアがたった一人で作っているため常に品薄状態となっていた。そんな中、王城からマヨネーズの注文があったとレオールの家にシェリアがある夜訪ねてきた。

 

「こんばんは。シェリアさん、どうしたんですか?」

「ハルトラ君、たっ、大変なことになってしまったの!!マヨ、マヨ」

「まよ?もしかしてマヨネーズで何か問題でも?」

「王城からマヨネーズの注文があったのよ!!しかも、大量に!!私一人じゃ無理!!っていうか、お店に出す分もあるし、どうしたらいいのか~」


 春虎とシェリアがリビングで話していた内容を聞いたレオールが心配そうに話に入ってきた。

 

「王城からはどのくらいの注文が?」

「レオール様……、それが100瓶も注文があったんです。毎日お店で売っているものの二倍の数です」

「期日は?」

「それが……、明日の正午までと。絶対に無理です!!最近注文がすごくて、体が悲鳴を上げているところに、100瓶とか無理です」

「明日か……。そう言えば明日は、城で晩餐会があったな。まさかそこで出すつもりなのか?それにしても、無茶な注文だ。依頼は今日されたのか?」

「はい……。お店を閉めてくたくたになりながら、晩御飯を食べようとしていたときに、お城の方が来て……」


 シェリアそういった後に、彼女のお腹が可愛らしく音を立てた。シェリアは慌てて手でお腹を抑えたが、すでにその場にいる全員に音を聞かれてしまっていた。

 顔を赤くして俯くシェリアに春虎は、優しく言った。

 

「腹が減っては、なんとやらです。ちょっと待っていてくださいね」


 そう言って、キッチンに向かった。それほど時間も経たないうちに、トレーを持った春虎がリビングに戻ってきた。

 春虎は、シェリアに皿を差し出した。

 シェリアはその皿を見て、困惑した。見たことも嗅いだこともない謎の茶色の何かが、白い何かの上に掛かっていたのだ。

 匂いは、独特だが何故か胃が刺激された。春虎が、今まで出してくれた食べ物は全部美味しかったこともあり、恐る恐るその茶色の何かが掛かった白いものをスプーンで掬って、思い切って口に入れた。

 口に入れた瞬間、なんとも言えない辛さと甘さ、そしてスパイシーでいてコクのある味わいが口に広がった。

 シェリアは夢中でそれを食べた。それはもう、気持ちがいい食べっぷりだった。

 

「ぷは~。なんですかこれ、美味しすぎです。これ、お米ですよね?それと、茶色の液体は?」

「はい。これはカレーライスといいます」

「かれーらいす」

「はい。複数のスパイスと小麦粉とお醤油、ソース、トマトペーストなどを火にかけて練ったものを更に寝かせます。これがルーです」

「るー」

「それを、玉ねぎ、人参、ジャガイモ、お肉。今日は、牛肉ですが、それらを炒めてから、水を入れて煮込んで全体に火が通ったら、ルーを入れて出来上がりです。出来上がったものをご飯の上にかければ、カレーライスの完成です」

「なるほど、これはとでも美味しいものです。それが、私の店にあった、材料が使われているなんて……。大和国の食材はやっぱりすごいですね」

「今日の夕食のあまりですが、まだあるのでおかわりでしたら遠慮せずに言ってくださいね」

「そういうことなら、おかわりください!!」

「はい。ちょっと待っててくださいね」


 そう言って、おかわりを取りに行く春虎だった。

 そう、このカレーは秋護が言葉が上達したご褒美として、醤油が手に入った次の日に春虎がルーを作り、秋護に出したのだ。それからは、カレーを気に入ったウィリアムたちからのリクエストもあり、数日に一度の高頻度でカレーが食卓に並んでいたのだった。


 おかわりのカレーを食べて一息ついたシェリアは再び、頭を抱えた。

 頭を抱えるシェリアを見かねたレオールからある提案がされた。


「私から提案がある。これは、女性の協力がいるが私には親しい女性がいない……」


 そう言って、何故か春虎の方を向いてレオールがとんでもないことを提案した。 

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