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第四十五話 美味しいはヤバイ

 食材を買い足した春虎は、ご機嫌な様子でレオールの家に着いてからキッチンに向かった。それを見送ったウィリアムは、先程見た不可解な表情についてどうしても確認しないとと決心し、レオールに話しかけることにした。


「おい、お前って子供が好きなんだよな?ハルはそんなに子供じゃないぞ」


 突然のウィリアムの理解不能なセリフに春虎が夕食までの間にと用意してくれた紅茶を飲むのをやめて、リビングのソファーの対面に座るウィリアムを理解できない生物でも見るかのような目で見返した。

 

「何を言っているんだ?私は別に幼い子供が好きというわけでは……」

「おい、俺は一言も幼いとは言っていないぞ」

「近いことは言った」

「俺が言ったのは、小さな子供じゃないってことだ」

「まぁ、それはいい。それで?」

「その……、ユーリの調べでお前は幼い子供が好きな変態だとあったからな。うちの大切なクルーをその毒牙に掛けられては困ると思ってだな!!」


 ウィリアムの謎な、質問にこめかみを押さえつつ自分が周りに与えているイメージがひどいものだったという事実に目眩を覚えた。

 

(あれか?私が一度迷子を助けたことに尾ひれがついたのか?それとも、孤児院に寄付した際に、そこの子供たちに文字を教えてあげたことに尾ひれがついたのか?それとも……。私は、小さなものを守りたいだけで、幼子が特別に好きな訳ではない。私は、至って普通の思考の持ち主だ。普通に女性が……。そう言えば、今まで誰かを本気で好きになったことはなかったかもしれないな)


 思考の海に沈んだレオールは、自分が今まで誰かを本気で好きになったことがない事実に驚愕した。その上、幼い頃に婚約にしてほしいと寄ってきた沢山の少女や女性たちが取っ組み合いの大喧嘩になったことがきっかけで、女性に夢を持つことをやめた。その事件からレオールには、女性は獲物を狙う獰猛な野獣にしか見えなくなったのだ。

 そのことから、女性を避けているうちに、女性嫌い、子供好きの変態などという不名誉な噂が立ってしまったのだった。

 

 説明する理由はないが、不名誉な噂を信じるウィリアムに一言いってやろうとしたところで、ユリウスたちが戻ってきた。

 そして、それと同時にキッチンから春虎が出てきて夕食の用意ができたと全員に向って言った。

 話が途中ではあったが、春虎たちがいるところで話すことではないと思い直し後で改めて話そうと考え、ダイニングへと向かったのだった。

 

 ダイニングに入るなり、秋護が喜びの声を上げた。

 

「この匂い!!まさか……あれなのか!!」

「そうです。偶然あれが手に入ったので、作りました!!」


 春虎と秋護は顔を見合わせて同時に言った。

 

「お好み焼きです!!」

「たこ焼きか!!」

「「……」」


 一瞬の間が空いた。春虎は、ぱちくりと瞬いた後に、微笑みながら言った。

 

「ごめんなさい。でも、タコが手に入ったら、タコパをしましょう!!でも、たこ焼きを焼くための鉄板を用意しないと……」

「全然いい!!お好み焼き嬉しい!!食べる、しよう!!」


 盛り上がる二人についていくことができなかった、ウィリアムたちはテーブルにある平たく、黒と白の液体がかかった謎のものを興味深そうに眺めていた。

 食欲をそそられる匂いではあるが、こんな形状の食べ物を未だかつて見たことがない三人は、テーブルについてもしばらく口に入れることができなかった。

 それを知ってか知らずか、秋護は早々とおかわりをしていた。しかも、謎の棒を使って。

 

 お好み焼きに手を付けない三人に気がついた春虎は、自分の好みで作ったことを後悔し始めた。

 しょんぼりとした春虎に気がついた秋護は、三人言った。

 

「これ、食う!!美味い!!ヤバイ!!」


 秋護の勢いに押された三人は、用意されていたナイフとフォークを使い平たいそれを切り分けで、恐る恐る口に入れた。

 その瞬間、口に広がる甘じょっぱい味と、それをマイルドに包み込むまろやかな酸味に夢中になった。

 全員が、勢いよくお好み焼きを食べきり、おかわりまでした後にやっと口を開いた。

 

「何だこれは……。美味すぎる。特にこの白い液体が半端ない旨さだ」

「ああ、それも美味いが俺はこの黒いやつが気に入った。それに、このパンとも言えない生地に練り込まれた野菜との相性が最高だ」

「ああ、驚いた。ここで暮らしてそれなりだが、この街にここまで美味い調味料があったことに驚きだ……。しかし、この白いものは買った中にはなかったように思うが?」


 三人が気に入ってくれたことに安心した春虎は、全員の質問に答えていった。

 

「船長が気に入ったそれは、マヨネーズです」

「「「まよねーず」」」

「はい。今日手に入れたお酢を使って作りました。それで、副船長が気に入ったのは、ソースです」

「「「そーす」」」

「それも、今日購入した醤油とお酢と他にも野菜やハーブなどを混ぜて作りました。今日作った料理は、お好み焼きといいます」

「「「おこのみやき」」」


 三人が様子が可笑しく、春虎と秋護は顔を見合わせて笑いあった。


 その日の食事は、懐かしい調味料との出会いで全員が満足し楽しく過ぎていった。

 

 翌日、王立図書館からの帰りに昨日の店によった春虎は、店員に作ってきたお好み焼きをその場で火の魔術と風の魔術の複合魔術で温め直してから差し出した。

 店員はそれを恐る恐る口にしたが、ひとくち食べた後に驚いた顔をした後に一気にすべてを食べて満足顔で言った。

 

 「こんなに、美味しいもの初めて食べました。祖父が言っていた通り、この調味料は調理次第で本当に美味しくなるんですね。ありがとうございます」

 

 その後、店員と仲良くなった春虎は、たまに料理を差し入れに遊びに行くことになるのだった。

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