第四十四話 調味料との出会い
春虎の作ったお弁当を食べ終わった秋護とユリウスは再び訓練へと戻っていった。
それを見送ってから、王立図書館に戻って写しの作業を進める。切りの良いところまで進めて、今日の作業は終えることにした。
当面の食材を購入してからレオールの家に帰ることをユリウスに伝えると、「俺たちはもう少し訓練をしてから帰る」ということだったので、ウィリアムとレオールとの三人で買い出しに向かうことになった。
レオールの案内で、食材が置いてある店が並ぶ通りに着いた春虎は、物珍しそうに並んでいる食材を眺めた。
店先には、そのままでも美味しそうな果物や野菜が数多く並んでいた。
(もしかして、ラジタリウスの人って、そのままで美味しい食材になれてしまって、調理することがおざなりになっているんじゃ……。まぁ、そんなことよりも美味しそうな果物が沢山あるから、フルーツタルトでもつくろうかな?)
そんなことを考えつつ、店を回っていると一軒の店が目に入った。他の店に比べるとお客が圧倒的に少ない。というか、店員しかいない店だった。
なんとなく興味が出てその店を覗くとそこの店先には沢山の調味料が並んでいた。
春虎は、店にある調味料をじっくりと見渡してから店員に話しかけた。
「すみません、あの……、味見ってできますか?」
店員は、まさか味見を求められるとは思わず、慌てながらも出来ると言って、どれがいいか確認してきた。
春虎は、不透明な瓶に入った調味料と、薄い琥珀色の液体の入った瓶を指さした。
「これと、これをお願いします」
「わかりました。でも、これはどっちも美味しくないですよ?」
そう言って、お皿に少し液体を注いで差し出してくれた。春虎は、匂いを嗅いだ後に少し指につけて舐めてみる。
その味はとても懐かしい味だった。
(間違いない。お醤油とみりんだ!!でも、なんでここに?)
久しぶりの日本の味だったので、驚きに目を見張りながらも店員に他にも変わったものはないかと尋ねた。
「そうですね~、これとか見た目がちょっとあれでお店には出していなんですが……」
そう言って、木でできた箱に入ったものを差し出した。何とそこにあったのは、味噌だった。日本の食材にここで出会えるとは思っていなかったため、少し興奮気味に店員に詰め寄ってしまう。店員は少し仰け反りながらも、美少年に下からぐいっと顔を近づけられて顔を赤らめた。
「あの、これってどこから仕入れたんですか!!作っている人はどこにいるんですか!!」
「えっと、それは祖父の故郷から輸入しているんです。でも、どうやって料理に使うの知っている祖父はすでにいなくて……。でも、祖父が輸入を数年契約でしてしまっているので、在庫を抱えて困っていたんですよ。あははは……」
「全部、全部ください!!」
「そう、全然売れなくて……。えっ?全部?」
「はい!!他にも輸入している調味料はありますか?」
「ありますけど……。祖父の契約したものは酸っぱかったり、辛かったり、しょっぱかったりで全然美味しくないですよ?」
「酸っぱい?まさか……。見せてください」
春虎の熱意に押された店員は、他にも見せてくれた。その結果、酢と調理酒があった。更に、お米も取り扱っていた。
なんでも、輸入先の人が調味料だけをいつも仕入れてくれるおまけとして一緒に送ってくれたそうだが、使い方がわからず、倉庫に眠っていたといっていた。
春虎は、瞳を輝かせて買えるだけ買って、ご満悦だった。
店員もこんなに売れるとは思っていなかったようで、呆気にとられながらも、大量買する春虎にお米は「使い方もわからないので差し上げます」と言って、タダで譲ってくれたのだ。
春虎は、店員の手を握って頬を赤く染めながら「明日また来ます!!」と言って店員を困惑させた。
そんな春虎をレオールは少し呆れた顔で見ていたが、この大量の荷物をどうやって運ぶのかと呆れた声で尋ねた。
すると、何でもないようにそこにあった大量のお米と調味料を亜空魔術で収納していった。
それを呆気にとられて見ているレオールに、何故かウィリアムがドヤ顔で言った。
「ハルは、料理は美味いし、強いし、可愛いし、格好いいし、最高なんだ!!」
「何故、ウィリアムが偉そうに言うんだ」
「それは、俺が……」
「俺が?」
「俺が、そう、俺が船長だからだ!!」
意味のわからないウィリアムを放って置くことにしたレオールは、今日買った食材について興味津々に質問をした。
「それで、こんなに買ってどうするんだ?」
「これらは、保存が効くので今後のことを考えてたくさん買いました。ふふふ。これでいろいろな料理ができる!!」
「そうか、私の知らない料理が食べられると思うと楽しみだ」
「はい!そうだ、食材の買い足しをしないと!」
そう言って、食材を売っている店に戻っていく春虎をレオールはいつもよりも柔和な表情で眺めていたが、それに気がついたウィリアムは嫌な予感がして、そのことを突っ込むことができなかった。




