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第四十話 その正体は……

 一人、リビングでウィリアムたちが起きてくるのをお茶を飲みながら待っていると、一番始めにユリウスが起きてリビングに入ってきた。

 部屋で身支度を整えてからリビングにやって来たユリウスはすでに身支度を終えている春虎に声をかけた。

 

「随分と早いな、眠れなかったのか?」


 心配そうな表情で春虎の体調を尋ねてきた。そして、体温を測るように春虎の額にそっとその大きな手で優しく触れた。

 

「熱はなさそうだな。具合が悪いようだったら、仕事は明日からでも大丈夫だぞ?」

「大丈夫です。体調も問題ありません。お気遣いありがとうございます」


 いつにないユリウスの心配ように、困惑しつつも何も問題はないと笑顔で返した。春虎の見せた笑顔で少し安心した表情になったユリウスは、まだ起きない二人にため息を吐きつつ叩き起こそうとした。しかし、まだ時間はあるとそれを止めた春虎はユリウスにお茶を勧めた。

 

 静かなリビングに、置物の時計の音だけが響いた。二人共おしゃべりな方ではないため、お互いに無言でお茶を飲み続けていると、ウィリアムが身支度を整えた姿で部屋を出てきた。

 

「悪い、待たせたな」


 二人がすでにリビングでお茶を飲んで待っていたことを見たウィリアムは、寝坊したかと慌てて謝罪した。しかし、約束の時間よりも早いため、寝坊ではないと説明しながらユリウスはリビングの時計を指差した。

 

「そっか、ならいい。俺が……最後ではなかったみたいだな」


 そう言って、まだ眠そうな表情の秋護を見たウィリアムは苦笑いをした。瞼を擦りながら、あくびをしつつリビングに入ってきた秋護はまだ、身支度を整えてもいなかった。

 ボサボサの黒髪に、トレードマークの黒縁眼鏡も掛けていない寝間着の姿だった。

 

「秋護さん、顔を洗って着替えてきてくださいね」

『悪い。昨日なかなか寝付けなくて』


 秋護の何気ない言葉を聞いて春虎は謝罪した。


『ごめんなさい。やっぱり、私と寝るの嫌でしたよね……。今日は、リビングでね―――』

『違うから!!いや、違くないような気もするけど、違うから。ほら、春虎ちゃんって、実際は美少女なわけで、そんな可愛い女の子が横ですよすよ寝てたら、普通の男は気になって眠れないものなの!!だから、これは誰も悪くないの。男の性なの!仕方ないの!!だから、宿の人に言って、簡易ベッドを入れてもらえないか聞いてみることにしよう!!もしだめだったら、そのときに他の方法を考えよう!!』


 春虎の謝罪を遮って、力いっぱい否定した。そして、今日からのことで簡易ベッドを入れてもらえないか聞いてみることを提案した。

 春虎も秋護がそれでいいのならと、その意見に頷いた。

 二人が、日本語で会話をしていると、少し機嫌の悪そうな表情をしたウイリアムが割って入った。

 

「その言葉禁止!!ここでは、俺達に分かる言葉で話せ。眼の前にいるのに、仲間ハズレにされているみたいでなんか寂しいぞ」


 ウィリアムの予想外の反応に春虎は、困り顔になり、秋護は爆笑した。

 

「くくくっ。船長、面白い人」

「お前は、何を子供みたいなことを言っているんだ。ハル坊が困っているだろうが。はぁ、全員揃ったし、もういい時間だ。朝食に行こう」


 こうして、朝から騒がしい空気になりつつも朝食を取るために、レストランに向かった。

 レストランで、簡単な食事を取って部屋に戻った。その道すがら、秋護はため息を吐きつつ言った。

 

「ここのご飯。微妙。不味いわけ違う。でも、なにかない」


 秋護の言葉に隣を歩くユリウスも同意して頷いた。


「そうだな。俺もここの飯は何か一味足りない気がしてた。全体的に素材の味というか……」

「あー、俺も思わった。なんかこう、味が薄いっていうか」

「そうですね。イグニス王国に比べて調味料の種類が少ないのかもしれないですね。それに、味付けも本当に、焼いて塩少々と言ったところでしょうか?それに、スープもただ具材を煮て塩を入れただけで出汁とか気にしたことないって感じの味付けでしたね」

「春虎ちゃんのご飯、恋しい」


 秋護が虚しく呟きながら部屋に入ると、そこにはすでにレオールが待っていた。

 ユリウスは、部屋は鍵をかけて出たはずだと、険しい目でレオールを見ていると、ユリウスの考えていることを察したレオールが謝罪しつつ理由を話した。

 

「悪いな。無断で入って、ここは私が手配した部屋だからな、宿の人間に言えば合鍵で入れる。訪ねたが、不在だったので、中で待たせてもらった」


 レオールの謝罪に鼻を鳴らしつつ、ユリウスはここにいつ理由を察してはいたが聞いた。

 

「不法侵入の件はわかった。で?」

「察しているだろうに。まぁ、いいさ。改めて挨拶をしよう。私は、今回君たちがここで仕事を終えるまで世話をすることになった、レオール・ファティマだ」

「で、実際は何者なんだ?」

「ただの、レオールだが?」

「そんな訳あるか。確か、ラジタリウス王国にはファティマ侯爵家に三人の息子がいると聞いたことがある。更に言うと、その三人の息子の中には変わり者で堅物、女性が苦手で結婚から逃げ続ける子供好きの変態な三男がいると聞いたことがあるのだが」

「子供は好きだが変態では断じてない!!」

「「「突っ込むとこそこかよ!!」」」


 ユリウスの言葉に、反論したレオールだったが、反論する箇所が微妙だったためウィリアムとユリウスと秋護は思わず突っ込んだ。

 春虎はと言うと、レオールの身分が意外なことに驚きつつも、ユリウスがその情報をいつ仕入れたのかに驚いていた。

 

「流石、ゴールデン・ウルフの腹黒副船長だな。いつから私の正体に気がついていたんだ?」

「ああ?そんなの、あんたがイグニス王国にいたときには分かっていたことだ。変なやつとうちの子が関わって碌でもない事に巻き込まれたらことだからな。だから探らせてもらった」


 こともなげに言うユリウスにウィリアムは「俺、全然そんな話聞いてないぞ!!」と言ったが、なんでもないことのように返した。

 

「別に、あのときはそこまでハル坊と関わることはないし、二度と会うこともないと思ったからウィルには言わなかった」

「俺、船長なのに……」


 項垂れるウィリアムを気にすることもなく、ユリウスは侯爵家の三男がどうしてこんな面倒な仕事を引き受けることになったのか納得がいく説明を求めた。

 すると、レオールから意外なといえば意外な、そうでもないと言えばそうでもないような反応に困る返事が帰ってきたのだった。

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