第三十六話 告白
その日ウィリアムはドレイクの呼び出しに渋々応じて王城に向かっていた。
呼び出しの理由は、知らされてはいなかった。
本当は、春虎との買い出しという名のお出かけをする予定だったのだが、前日にドレイクからの呼び出しを知らせる使いが来た。
使いの者に呼び出しの理由を聞いたが、「会って話す」としか伝言は受けてはいないとのことだった。
最初は、バックレようとしていたウィリアムだったがユリウスに必ず行くようにと釘を差されてしまいそれは許されなかった。
こうして、渋々王城に向かったというわけだった。
王城の一室に案内されたウィリアムは、すでに待っていたドレイクに挨拶もそこそこに要件を聞いた。
「提督、今回の要件は一体?」
ウィリアムの問いかけにドレイクは、「まぁ、座れよ」とのんびりと答えた。
イライラしながらも、ドレイクの対面の椅子に座った。
ドレイクが何も言い出さないため、机を指で叩いてイライラを表に出しながら頬杖をついて文句を言っていると、ドレイクがやっと口を開いた。
「お前が装飾品を着けるなんて珍しいな?漸く特定のコレでもできたのか?」
ニヤニヤしつつ、ドレイクは小指を立ててウィリアムに言った。
思ってもみない問いかけに間の抜けた表情をした。
そして、忌々しく呪いの腕輪を睨みつけた。
「そんなんじゃない。ただの呪いのアイテムだよ」
ウィリアムは吐き捨てるように言った。
思わぬ返答に口をパクパクとさせて、瞬きをしたドレイクは、吐き捨てられた言葉の意味を理解し心配そうに体に悪い影響はないのかと聞いた。
心配されるとは思わなかったウィリアムは呆気にとられたように答えた。
「おっ、おう。別に体には影響ない……ただ……」
「おい、ただなんだ?」
言い淀んだウィリアムにドレイクは方眉を上げて聞いた。
「なんだ?とうとうお前に惚れた女から、常に居場所でも分かるようになる首輪でも付けられたのか?これで、お前の見かけ詐欺に引っかかる女も少しは減るかもな」
「そんな女しらねーし!!これは、この前の航海でドジっただけだ」
ウィリアムは、自分が女性たちにキャーキャー言われているのはただ単に私掠船の船長という肩書きのせいだと思い、自分の容貌についてあまり気にしていなかったのだ。
なので、自分に惚れている女と言われてもいまいちピント来なかった。
女ではないが、春虎が少しでも自分のことを一人の人間として、一人の男として意識してくれていたらとため息とをはいた。
そのため息があまりにも切実そうだったため、ドレイクは何かあったのかと本気で心配し始めた。
「おい、それそんなにやばい代物なのか?そんなにやばいやつなら外しちまえよ」
ドレイクは、何を律儀に呪いのアイテムを付けているのかと思い、気軽に外してしまえと言ったが、外したくても外れないこの呪いの腕輪を忌々しく思うウィリアムは苛ついた口調でつい言い返してしまった。
そう、言わなくてもいいことまで言ってしまったのだ。
「外せるもんなら、壊してでも外してる!!これは、俺の気持ちがハルと通じ合わないと絶対に外れないんだよ!!」
「お前の気持ち?通じ合う?ハー坊と?それは一体どういうことだ?」
「俺だって分かっている!!こんな想いは絶対に届かないってこと!それに、こんな不毛な気持ちをハルに向けているなんて知られれば、好きになってくれるどころか怖がられるに決まっている!!でも、初めてなんだよ!こんな気持ちは、いつもハルのこと気になって仕方ない。ハルが他のやつといるところなんて見たくない。いつもそばに居てほしいし、俺にだけ優しくてし欲しい!!同郷だっていう、シューゴと楽しそうに話すのも、同期で年が近いエルムと過ごすのも、ユーリと一緒に行動するのも、全部全部嫌なんだよ!!」
うつむき床の絨毯に向かって、ついに今まで溜まりに溜まった不満な気持ちが爆発させた。
もう、洗いざらい思っていることを吐いてしまった。そう、誰の目の前だったのかも忘れて。
興奮したウィリアムは、肩で息をつき腹に溜まった気持ちを吐き出し、自分の中で少し気持ちの整理ができたことで、再び心に余裕が出てきたのを感じた。
改めて、春虎のことが男だとしても気にならないくらい好きになっていることを実感した。
しかし、今自分は誰の前にいたのか思い出して顔から血の気が引いた。
顔を上げてドレイクがどんな表情をしているのか見るのが怖くなったウィリアムは、うつむいたまま固まっていた。
どのくらいそうしていただろうか、突然凍りついたような空気が破られた。
「くっ、くく……。あははははーーーーー!!!マジか!!マジなのか!!マジ可笑しい!!ひーひー!!腹痛い!!やばい、腹が割れる!!腹割れる!!あははははーーー!!!!ゴホッ、ゴホッ!!!」
「「ウッ、ウホー!!片思いこじらせ展開きたー!!」」
その空気を破ったのは、ドレイクの笑い声といつの間にか部屋に入ってきていた女王と専属メイドの謎の叫びだった。




