第三十四話 勉強と休憩
頭をかきながら、秋護は恥ずかしそうに春虎を見た。
春虎は、恥ずかしがることはないといった風に微かに微笑んで返事をした。
『小学校程度でも全然問題ないですよ!!頑張って、日常会が出来るようになってカレーを食べましょう!!』
そういって、早速授業を始める。
といっても、実践形式での会話が中心だった。
秋護が喋った言葉を、イグニス語で言い直して、それを秋護に復唱してもらうことを繰り返す。
たまに、秋護の言葉に返事をして会話形式にする。
それを何度も、何度も繰り返す。
一時間ほど繰り返したところで、休憩にしようと春虎が提案をした。
それに、秋護も賛成した。
お茶にしようとしたが、人を呼ぶのも手間を掛けてしまうと考えた春虎は、亜空魔術でしまっていた茶器と作り置いていた蒸しパンを取り出した。
部屋にあった水差しにある水を魔術で沸かして茶器でお茶を淹れる。
部屋には、花茶のいい匂いが立ちこめた。
その匂いに鼻をひくつかせた秋護はお茶の他にも、蒸しパンが用意されていることに気が付き、興奮したように瞳を輝かせた。
『いい匂いのお茶だな~。それに、蒸しパンか?う~ん、美味しそう~』
『ふふふ。花茶というものです。匂いもいいですけど、甘さ控えめでスッキリした味のお茶なんですよ。この黒糖を使った蒸しパンとも合うんですよ。さ、召し上がれ』
『いただきま~す』
瞳を輝かせて大きな口で蒸しパンを一口頬張る。そして、更にもう一口。瞳を輝かせながら無心で食べ続ける。途中、花茶を飲みながら用意した蒸しパンを完食し、花茶も飲み干した秋護は満足気に息を吐いた。
『ふう。美味かった~。春虎ちゃん、料理上手だね~』
『そうですか?普通だと思いますけど?』
『いやいやいや、ここで出される料理も美味いけど、俺は春虎ちゃんの料理が気に入ったよ。これがいつでも食べられるようになるなら、一刻も早く言葉を覚えるのもいいかもな~』
休憩前よりもやる気を出した秋護に春虎は微笑みながら授業の再開をすることにした。
◆◇◆◇
気がつくと、外は夕暮れとなっていた。
まだ、ウィリアムたちは戻ってきていなかった。授業はお終いにして、二人を待つ間雑談をしながら過ごしていた。
雑談をしながら、春虎の出したクッキーを食べて和やかな空気で話をしていると、扉が勢いよく開いた。
開いた扉の方を見ると、ものすごく疲れた表情のウィリアムとユリウスが入ってきた。
更に、その後から引きつった表情のレオールも入ってきた。
雑談で笑顔になっていた春虎は、その表情のまま戻ってきた三人の方を向いて「おかえりなさい」と声をかけた。
その声と顔を見たウィリアムとユリウスは表情を緩めた。
特に、ウィリアムは蕩けるような笑顔を見せた。
ユリウスは、やれやれと言った表情になったが、先程までの提督とのやり取りや、相変わらずの女王の眼力で疲れ切っていたため突っ込むことはしなかった。
レオールはというと、初めてまともに?女王と対面し謎のプレッシャーで精神が疲弊していた。更に、偶然だがドレイクと対面することになり、その自由人っぷりでウィリアムとユリウスに無理難題を言っている姿を見て顔を引きつらせていたのだった。
笑顔で出迎えられたことで、少し心の平穏が戻ってくるのを感じていた。
「ただいま。なんかいい匂いがするな?」
ウィリアムが、鼻をひくつかせながら部屋の匂いを嗅いでいった。
そんな姿に、笑顔をみせて春虎は二人の帰りを待つ間にお茶をしていたと説明をした。
「いいなぁ~。俺も食べたい」
「船長、帰ったらご飯にしますから、我慢してください。明日、なにかお菓子を用意しますから」
年上のウィリアムをまるで子供に言い聞かせるように言う春虎にユリウスは微妙な表情になりながらも何も口には出さなかった。
(はぁ、ウィル無意識だろうが完全にハル坊に甘えてるな。これじゃぁ、どっちが歳上なのかわからんな……)
ウィリアムたちが戻ってきたことで、春虎は船に戻ることにして部屋を出た。
それから数日程、船と王城とを行き来をする生活が続いたのだった。




