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第三十一話 特典なんてなかった

 秋護は、自分に何が起こったのかを分かっている範囲で春虎に語った。

 流石にオタク趣味や腐男子であること、船での恥ずかしい勘違いは省いた上での説明だ。


『そうですが、買い物中に……。私とは状況が全然違いますね。一緒な点は夜だった事くらいですかね?』

『だな~。春虎ちゃんはこっちに来た時、手荷物とかは一緒にあったのか?』

『はい、ありました』

『そっか、俺の荷物はどこいったんだろう……。直前に持ってたガチャポンも気がついたらなかったし』

『船にないか探してもらうように言っておきますね』

『マジか!ありがとう!』

『荷物はどんな物ですか?』

『折り畳みできる、布製のキャリーバッグだ。中に買った本を入れてるからそれなりに重いよ。大きさはこれくらいかな?』


 秋護は、身振りでキャリーバックの大きさを春虎に教えてくれたのだった。


『布製のキャリーバッグ……、中に本……。何か思い出しそうな……』


 秋護のいう荷物の特徴にどこかで似たような荷物を聞いたような気がして首を傾げた。しかし、どこで聞いたのか思い出せずにいると、秋護が春虎を心配するように伺ってきた。


『どうしたんだ?』

『いえ、なんでもありません』


 思い出せないものを悩んでも仕方ないと、悩むのはそこまでにしてこれからのことを相談しようとしたが、その前に秋護に尋ねられた。


『そう言えば、昨日船で話しかけてきた謎の人物が居たんだけど、その人はどこにいるか分かるか?』


 つい、それは自分だと言おうとしたが、先ほどユリウスに黙っておくように言われたことを思い出し、言われた通りに知らないと答えることにした。


『すみません。その人のことについてはよく知らないんです』

『そっか、短いやり取りだったけど正直助かったからさ、お礼を言いたくて。知ってる人が居たらお礼言ってたって、言っておいてくれるかな?』

『分かりました』

『よろしくな。それと、春虎ちゃんの性別のことは言葉が分かるようになっても俺から他の人に言うことはないから安心してくれ』

『はい。お気遣いありがとうございます』

『言葉と言えば、春虎ちゃんはどうしてこっちの言葉が分かるんだ?もしかして、異世界召喚特典か?』

『異世界召喚特典ですか?』


 聞きなれない言葉に首を傾げていると秋護が説明してくれた。


『ほら、読んだことないかな?ラノベとかで、異世界に召喚された人は召喚特典でその世界の言葉が自動翻訳される能力とか、チート能力とかさ』


 揚羽の趣味でBLや多少のラノベを読んだことはあったが、読んだのは異世界ものではなく現代ものだったため召喚特典についてピンと来るものがなかったため正直に答えた。

 しかし、元の世界から出来ている忍術が既にチートな力であることを全く理解していない春虎だった。


『ラノベですか?あまり読んだことがないのでよくわからないですが、秋護さんの言う特典はないですね』

『えっ?でも話せてるよね?』

『秋護さんが居た船は、言い回しとか発音に独特な癖はありましたが、フランス語に似た言葉だったので分かりましたし、イグニス王国はイギリス英語に似た言葉の国だったのでこっちも問題ありませんでした』

『マジか……。自前の語学力ってありなのか?』

『その所為で、最初は過去にでもタイムスリップでもしたのかと思いました。でも、ここには、魔道技術と呼ばれるものや魔法があったので、異世界だと分かりました』

『魔道技術?魔法!!』

『はい。あの照明とかは、電気ではなく魔道技術という科学ではない別の技術で生活を豊かにしているようです』

『へぇ~、魔法か~。そう言えば俺も船でよくわからないうちに火が手から出て大参事になったっけな~。あはははは~』

『魔法も適性があるものは訓練すれば使えるようになりますよ。後で、秋護さんの適性を調べてもらえるようにお願いしておきますね』

『ありがとな。春虎ちゃんの適性はどうだったんだ?』

『えっと、全属性適性ありでした』

『ほうほう、それが異世界召喚の特典なのかもしれない。そうなると、俺も全属性持ちか?これは、調べてもらうのが楽しみだ』


 まだまだ話したい事はあったが、先ほどから何度もウィリアムの「まだかなぁ~、まだかな?」という、声がしていて一旦話を中断して秋護のこれからについて相談することにした。


「すみません。お待たせしました。秋護さんの事は大体把握しました。少しお願いなのですが、秋護さんがこちらに呼ばれる前に持っていた荷物が船にないか探していただけませんか?荷物は、布製で長方形の箱のようななものです」


 そう言って、春虎は身振りで秋護から聞いたキャリーバッグの大きさを表した。


「分かった。確認しておこう」

「ありがとうございます。それと彼には、こちらで暮らすために言葉を覚えてもらう必要があると思いますが、どっちの言葉を教えればいいかですか?」


 春虎が、これからのことをレオールに聞くと彼は少し考えてから言った。


「彼にはイグニス王国の言葉を覚えてもらった方がよさそうだと思う。恐らくだが、本国からの返答は、彼の当面の生活費の保障はするが自由にしていいと回答があると思う。ただし、彼が何か特殊な能力や知識があれば本国に招くようにとの注釈がつくと思うがな。私としては、こちらのミスで全く関係ない彼を呼んでしまったのだがら、強制はしたくない。彼の意思を尊重したいと私は考えている。それに、イグニス王国の方が魔道技術も発展しているので生活しやすいだろうし。彼が望む言葉を教えてあげて欲しい」


 レオールの考えに春虎は、見た目は少し怖そうだが優しい誠実な人なのだということが分かり、自然と笑顔になる。


「分かりました。それでは、秋護さんの希望を聞いた上で言葉を勉強してもらうようにしますね」

「頼む」


 秋護の事について、魔法適性を調べてもらう手配をしてもらえるように、その場にいた宰相にお願いをする。

 宰相からは、直ぐに手配すると回答があり、お礼を言っていると、ウィリアムがさらにそわそわしだした。

 春虎は、苦笑いしつつウィリアムに言った。


「船長、すみません。もう少しですからちょっとだけ我慢してくださいね。お腹が空いているところ申し訳ないですが、これを食べて辛抱してくださいね?」


 そう言って、そわそわしている理由をお腹が空いているからだろうと考え、亜空魔術でしまっておいた、昨日作ったスコーンとジャムを取り出してウィリアムに差し出した。

 差し出されたものを見て、ウィリアムは昨日受けたダメージを思い出してしまった。

 しかし、ウィリアムは良いことを閃い自分を褒めたくなった。

 そう、昨日のエルムのように口元にジャムを付ければ同じように指で拭ってそれを口に入れるのではないかと。


 そう考えたウィリアムは、早速受け取ったスコーンにジャムをたっぷり、それはもうたっぷりと乗せて口いっぱいに頬張った。


(うっ、旨い!!リンゴのジャムが甘いだけじゃなく少しの酸味があって、くどくない甘さだ。これならいくらでも食える!!)


 そんなことを考えつつも、春虎がジャムを拭ってくれることを期待していると、横から白い布がぬっと現われて乱暴にウィリアムの口元が拭われた。


「ウィル、それは流石に行儀が悪いぞ。もう少し落ち着いて食え」

「……ユーリ、アリガトウ」


 春虎との、イチャイチャ計画を画策したウィリアムだったが、残念な思考で考えた残念な計画はユリウスが親切心という、余計なお世話で台無しにしたのだった。

 そして、ウィリアムが残念な食いしん坊だという印象を秋護とレオールに与えただけだった。

 さらに言うと、丁度女王が入室したタイミングと重なり、「ウホッ!!」と、なったのは本当にタイミングが悪かったとしか言えなかった。

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