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第二十三話 潜入調査

 影移動の術で他のクルーに気が付かれないように甲板に出た春虎は、フォアマストに登り、旗艦の位置を確かめる。旗艦との間には、二隻の船があった。

 手前の船のミズンマストに向けて、鉄鉤のついた鋼糸を投げた。手前の船のミズンマストに鉄鉤が掛かったことを確認した後に、鋼糸の端をフォアマストに括った。船と船を鋼糸で繋いだ状態にしてから、その上を素早く走って手前の船に移動した。同様の手順をもう一隻の船でもおこない、旗艦にたどり着いた春虎は、影移動の術で旗艦の中を進んだ。

 いくつかの部屋を見ていくと、作戦室と思われる部屋にウィリアムとユリウスがいた。

 表に出ずに、影の中からウィリアムにそっと声を掛ける。


「船長」

「ん?ハルの声が聞こえたような?」

「どうした?」

「いや、今ハルの声が聞こえた気がしたんだが?」

「おいおい、禁断症状か?」

「ちっ、違う!!」

「船長、ボクです」

「やっぱり聞こえる!」

「俺にもハル坊の声が聞こえた」


 二人が、周りを見渡すも影に潜んだ春虎の姿を確認することが出来なかった。

 首をかしげているウィリアムに、また春虎が声を掛けた。


「直ぐ近くにいます。ですが、外に出るのはいろいろと不味いので忍術で姿を隠しています」

「分かった。それで、どうした?何かあったのか?」

「向こうの船が気になるので偵察に行きます」

「偵察?だっ、駄目だ!!危険すぎる」

「俺も、反対だ。ハル坊は船で待機だ」

「でも、虫の知らせというか、どうしても行かないといけない気がするんです」

「それでもだ」

「お願いです。行かせてください」

「駄目だ」

「船長、お願いします!!」

「はぁ、言っても聞かないみたいだぞ。ハル坊の腕なら危険があっても逃げてこれるとは思うが……」

「無傷で必ず戻りますから」


 あまりに必死な声に、ウィリアムは考えを巡らせた。

 そして、必ず無傷で戻ることを約束させて偵察の許可を出したのだった。


 許可をもらった春虎は、甲板に移動し風向きを確認した。

 現在は、こちらが風上になっていた。そのことを確認してから、影から大凧を取り出す。

 風舞の術の応用で、大凧に強制的に風を送り向こうの艦隊まで一気に飛ぶことにしたのだ。

 メインマストから大凧に乗って、空を滑るように飛んだ。途中、術で方向と高度を調整し、旗艦と思われる船のメインマストに着地する。

 遠目からは、全体が燃えているように見えたが、実際に燃えていたのは旗艦と、旗艦を守っている護衛艦だけだった。

 とりあえず、消火をすることにした春虎は篠突く雨の術を発動し、燃えている戦艦に術で擬似的な雨を局地的に降らせた。

 術の効果により、燃えていた戦艦は消化することに成功した。

 火が完全に消えたことを確認した春虎は、とりあえず旗艦を見てみることにした。

 メインマストから甲板に降りようとした時に、船尾楼に人が集まっていることに今更ながら気が付いた。

 様子を見るため、ミズンマストに移動することにした。

 上から、様子を見ていると、船尾楼にいる人物を数人で取り囲んでいるのが見えた。

 何か言っているようだったので、耳を澄ませて会話を聞くことに集中することにした。

 すると、思いもよらない会話がされていたのだった。


『だから!ここはどこなんだよ!!それに、俺の荷物はどこにやったんだよ!!お前ら何言ってるかわかんねーよ!日本語で喋れ!!俺は、悪くない!!勝手に爆発したんだ!!来るな!近寄ってくんじゃんねーよ!!』


 船尾楼にいる男は、日本語で喚き散らしていた。

 話しを聞く限り、爆発はこの男と何か関係がありそうだと考えていると、男を囲んでいたうちの一人が話し始めた。


「落ち着いてくれ!!危害を加えるつもりはない!君は、妖精の招待を受けた人だろう?手荒なまねはしないから、落ち着いてくれ」


 双方の会話は互いに一方通行となっており、このままでは何の解決もないまま時間だけが過ぎていきそうだと考えた春虎は通訳に入ることを決意した。


 船尾楼いる日本人と思わしき男に話し方けた、ラジタリウス側の男なら事情を詳しく知っていそうだと考え、男に影から声を掛けることにした。


「私は、敵ではない。船尾楼の男の言葉を通訳してやる。その前に、状況を聞きたい」

「なっ、誰だ!!」

「落ち着け、直ぐ側にいるが姿を見せるわけにはいかない。あの男と意思疎通がしたいなら、私の要求に応じろ」

「……。分かった。実は、イグニス王国の女王陛下と取引をしたい事があって、ここまで来たのだ。それで、昨日の事だが領海に入る手前でイグニス王国側に通信でこちらの意思を伝えようとしたが、事故があって通信が出来なくなった。」

「事故だと?」

「こちらのミスだ。女王陛下に献上しようとしていた品の中に、妖精に由来する物があったようで、クルーが誤ってそれを月明かりに晒してしまったようなんだ。その途端、あの男が現れたという訳だ」

「どういうことだ?」

「妖精学に詳しいものでないと知らない内容だ。妖精に由来する装飾品などに月の光を浴びせると、遠い場所のものとその装飾品を交換できるという、おとぎ話のようなものだな」

「わかった。それで、うっかり、遠い場所からあの男を呼びだしてしまったという訳だな」

「うっかり……。まぁ、そうだな。それで、おとぎ話だと、遠い場所から来たものは大きな力や知恵をもたらすという伝承もあってな。彼と、話そうとしたが逃げられてしまってな、船内に隠れたのをこちらが見つけたはいいが、言葉が通じず。彼を落ち着かせようと試みたのだが、また逃げられてしまってな、さらに最悪なことに火の魔術で牽制されてしまって船が燃えたという訳だ。さっきの雨のお陰で火は消えたが、これからどうしたものか……」


 男の話を聞いた春虎は、影の中からそっと船尾楼にいる男を眺めた。

 その時、自分と多少の違いはあるが同じように知らない間にこちらに来ていた事が考えられて、元の世界に帰るための手掛かりを少しでも得られたようで、来てよかったと考えた。一応男に、帰る方法を知っているか聞くことにした。


「分かった。因みに、あの男を元の場所に戻す方法はあるのか?」

「それは知らないな」

「分かった。敵意はないことをあの男に知らせる。しばし待て」


 そう言って、今度は船尾楼の男の元に向かった。

 近くで見る男は、二十代の中肉中背の眼鏡を掛けた青年だった。

 春虎は、怯えた表情の青年に影から声を掛けた。


『おい、落ち着け。向こうさんは、敵意はないと言っている』

『これが落ち着けるか!!って、え!?』

『だから落ち着け、ここはお前のいた世界とは違う場所だ。うっかりで、お前を呼びだしてしまったらしい』

『うっかりだって!?』

『そうだ、聞いた話によると、妖精に由来する装飾品を誤って月の光に浴びせてしまったところ、お前が現れたそうだ。因みに、帰る方法は知らないそうだ』

『なんだよそれ……』

『それと、先ほどの爆発だがお前の意思で行ったのか?』

『俺は悪くないぞ!知らない言葉で話すマッチョ達に囲まれた時に身の危険を感じてだな……、気が付いたら手から炎が出てああなった。他意はないぞ!!』

『分かった、攻撃する意思はなかったと伝える。それと、お前の要望はあるか?』

『要望?』

『ああ、お前は誘拐されたも同然。生活の保障とかいろいろあるだろう?』

『そうだな、金は必要だな』

『分かった。金だな』


 春虎は、それを聞いて再度先ほどの男の元に戻った。


「敵意がないことは伝えた。それと、ここにいる理由も伝えた。向こうも、攻撃するつもりはなかったそうだ。言葉が通じないことで、混乱し訳が分からないうちに手から炎が出てしまったと言っている。それと、青年は今後の生活に必要な金を要求している。お前達は、青年をどうするつもりだ?」

「俺達で判断することは出来ない。ただ、この船の設備では長距離通信は出来ない。出来れば、イグニス王国の設備を借りたい。彼の事は国に相談しないと私の一存では決められない」

「分かった。それと、女王陛下と取引をしたいということだったが?」

「ああ、イグニス王国は魔道技術の最先端を行っている。その技術力を学ばせて欲しいというものだ。こちらからは、魔石や魔宝石の提供するというものだ」

「分かった。そのことも含め、報告する。この船の代表者は?」

「私だ。私は、提督代理のレオール・ファティマだ」

「分かった。しばし待て」


 そう言って、春虎は旗艦に急いで戻った。

 しかし、その心中は異世界から来たという青年のことでいっぱいだった。

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