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第二話 サバイバル生活

 春虎が次に気が付いた時には、どこかの浜辺に打ち上げられていた。

 あの切り立った丘から、海に投げ出されたのだから、軽くても骨折くらいはするかと思っていた春虎は、体のどこにも怪我がないことに安堵しつつも、逆に怪我が一切ないことに不安を感じた。

 あの切り立った丘の下は、岩肌がむき出しになっていたはずなのだ。勢いよく投げ飛ばされたとしても、岩肌にぶつかっていたはずなのに、かすり傷すらないのだ。

 そのことから、死んだから怪我がないのではないのかと自分が生きていることに疑問を持ったが、お腹が鳴る音で、これは現実なのだと思うにいたった。

 影の中に常に非常食や予備の忍具などを忍ばせているが、それは何かあった時に食べることにして、とにかく水と食料確保のため打ち上げられていた島を探索することにした。

 その島は小さな無人島で、春虎の他には誰も、動物すらいなかった。

 動物が入れば、狩って食料にしたのだが、残念ながら動物は発見できなかった。

 島の中心部に小さな泉があり、飲み水を確保することが出来たのは不幸中の幸いだったと言えよう。

 食べ物も、海で魚を取ることで解決することが出来た。


 春虎は、自分の他に誰もいない状況で術を使い続けるのもあれなので、自分に掛けていた変化の術と認識疎外の術を解いて、これからのことについて考えた。

 影の中に保管していた荷物の中にあったスマホを取り出してみるも、圏外となっていたため誰かに連絡を取ることはできなかった。

 スマホは、荷物の中に入っていたソーラー充電器で常に充電し万が一電波が入った時のためにいつでも使えるように備えることにした。

 夜に星を確認し、あの切り立った丘からそんなに離れていない場所に流れ着いたと判断した。ただ、微妙に星の位置が違うようにも思えて、不安になった。ただでさえ、あの丘の近くにこんな無人島あったのかと考えた時に、地図にはなかった事を思い出し、ここがどこなのか全く分からない状態で不安が募った。

 あの日、弥生と合流予定だったのだから、きっと弥生が見つけ出してくれると考え、大人しく無人島生活をエンジョイする方針に決めた春虎だったが、無人島についてから一週間たっても、今だ状況は変わらず少し焦り出していた。

 忍術も万能ではない。現在位置が分からない状態では、どうすることもできず、ただ助けを待つ他に出来ることがなかった。


 さらに、一週間が過ぎても一隻の船すら近くを通らないことに、もうこのままこの島で一生を終えるのかと諦めかけていた。

 このころの春虎は、この島で一生を過ごすこともあり得るのではないかと考え、泉の側に小さな家を建てて暮らしていた。

 さらに、濡れてもすぐに乾くようにと、腰まであった髪を短く切ってサバイバル生活をある意味満喫していた。

 そんなある日、これからのことを考えて釣った魚を干して非常食を作ろうと浜辺で作業をしていると、遠くに船影が見えることに春虎は気が付く。


 無人島に流れ着いて三週間目のことだった。


 春虎は、とにかく船に自分の存在を気付いてもらうため急いでのろしを上げた。

 のろしに気が付いてくれたようで、船が島に近づいてきた。

 船は沖に停まった。船から降ろされた小舟が島に向かってきた。

 春虎は、沖に停まった船に違和感を感じた。

 その船は、木造船だったのだ。

 いまどき、木造船で航海することなんてあるのかと考えているうちに、小舟が島に着いた。

 小舟から、三人の男が降りてきた。


「坊主、こんなところでどうした?」


(フランス語?まさか、そんなに流されていたのか?)


「俺の言っていること分かるか?」

「分かります。すみませんが、陸地まで乗せていただけませんか?」

「なんだってこんなところに?と聞きたいところだが、俺達もいろいろ訳ありでな。お前のことは詮索しない。お前も俺達のことを詮索するな。まぁ丁度、人出が足りなかったところだ。船の手伝いをするのが条件だ。それがいいなら、船長に乗船について掛けあう」

「分かりました。お願いします」


 春虎は、多少訛り?のあるフランス語で話す男に了承の意思を伝えると、小舟で沖にある船まで行くことになった。

 ただ、どうにも言葉以外にも男達の服装がどことなく昔のような古臭いデザインなのが気になったが、今は陸地にいくことが最優先事項なので、考えないことにした。

 沖に停まっていた、船も外から見た通りの木造船。


(この船全然機械音がしない……やっぱり何かおかしい)


 船長に挨拶する為、船長室に向かう間も次々におかしいことに気が付くが下手に質問をして厄介事を起こすのも面倒だと考え、極力考えないように努める。


「船長、さっきの島で小僧を拾ったんだが、船の手伝いをすることを条件に乗せようと思うんですが、いいですかい?」


 そう言って、春虎を案内していた男は、ノックもせずに扉を開きながらそう話した。


「お前、ノックをしろといつも言っているだろう?で、拾った小僧って?」

「こいつでさぁ」


 春虎は男に促されて、船長室にいた男に挨拶をした。


「初めまして、春虎です。このたびは、助けていただきありがとうございます」

「偉く丁寧な坊ちゃんだ。まぁ、俺達もいろいろ訳ありだ。お前のことを詮索はしない。ただし、今は人手が足りない。しっかり働け。さもないと海に放りだす」

「分かりました、確り務めさせていただきます」


 思いの外あっさりと、船長から乗船の許可が下りた。

 ただ、ここからが大変だった。

 予想通り、この木造船は電気機器が一切ないどころか発電施設や、エンジンもない。

 船の手伝いをするのも一苦労。掃除をするのも、すべて手作業。掃除機すらないのだ。

 さらに、理由は分からないが、船には負傷した人間が多くのっていた。

 船員に、負傷者の手当てについて聞いてみたが、けが人には近づくなと言われただけだった。

 治療もきちんとされず、不衛生な一室に押し込められている状態だった。


 電気もない、時代遅れのデザインの服装。木造船に、いくら船が進んでもスマホは圏外のまま。

 まさかとは思っていたが、過去にタイムスリップでもしたのかというありえない状況だ。

 今がいつなのか、聞くこともできずただ、時間だけが過ぎて行った。


 さらに、最悪なことに乗組員の話を聞く限りでは、この船は海賊船で春虎を乗せる前に他国の船を襲った時に戦闘になり乗組員が何人も負傷し手が足りない状態らしい。今は、自国のホームに戻っている途中ということだった。


 このままでは、海賊の仲間入り。あるいは陸地に着いた途端に奴隷として売り飛ばされる可能性も出てきた。

 まだ、陸地には着かないそうだが早いうちに対策を講じなければならないと考えていた時に、追い打ちを掛ける様に事件が起きた。


 その日は、甲板の掃除を頼まれたのでブラシでごしごしと擦っていた春虎は、見張りをしていた船員が「敵影!!」と叫んだのを聞いて、急いで周りを見渡した。


 遠くに船が見えたと思った時には、何故かこちらの船が大砲を撃ち始めた。

 甲板にいた船員に邪魔だから船内にいる様に言われたので、言われるがまま船内に移動した。

 船内に移動してしばらくすると、船に大きな衝撃が走った。甲板から、向こうの大砲が当ったという声が聞こえた。

 その後、人の叫び声や刃物のぶつかり合う音が響いた。

 どの位経ったのか、長いような短いような、春虎は外のざわめきが小さくなったことに気が付き、甲板の様子を見に行くことにした。

 ただし、気配を消して影からこっそりと。


 影から甲板の様子を見ると、船員たちが縄で縛られていた。

 状況から見て、遠くに見えた船の乗組員がこの船に乗り込んで来て戦闘になり、敗北したというところだろうか。


 よく見ると、船長も縄で縛られていた。

 その船長に、長い銀髪の長身の男が話しかけているところだった。


「よう。海賊さん。うちの国から取ったものを返してもらいに来た」

「けっ、若造が」

「ふん。その若造の船に後れを取ったのはどこのどいつだ?」

「ぬかせ。こっちはホームに帰るところだったんだ」

「そんなのいい訳だ。まぁ、死ぬ前にいい訳したい気持ちは分からなくもないが、男らしくないぜ?」

「ふん」

「それでは、こちらの法できちんと裁かせてもらうので、我が国へご招待させていただくよ」


 そう言って、銀髪の男は船長から離れて春虎の方に近づいてきた。


「う~ん。そこに誰かいるのか?」


 その言葉に春虎は驚いた。今は、忍術で姿も気配も分からなくしているはずなのに。それなのに、銀髪の男は、疑問形ながらも、そこに誰かいると確信したように話しかけてきたのだ。

 春虎は、黙っているよりも出て行った方がいいと判断して、術を解いて男の前に出ることに決めた。


 術を解いて、男の前に現れると、男はこちらを見て驚いた表情で話しかけてきた。


「なんだって、こんな小さい子供が?お前、海賊に捕まっていたのか?」


 思いの外優しい口調で話しかけてきた。

 間近でみる銀髪の男は、氷のような青い瞳の美青年だった。

 春虎は、この男なら助けてくれるような気がして話すことに決めた。


「無人島に流れ着いて、困っていたところをこの船の人に助けてもらって、陸までのせてもらう代わりに船の雑用をしていました」

「そうか。なら俺の船で港まで乗せていってやるよ」

「ありがとうございます」

「いいよ。言葉が分からない船で苦労しただろ?」

「えっ?」


 そう言われて、春虎は男がイギリス英語で話していることに気が付いた。


(油断して注意力が低下してた。イギリス英語の方が話しやすかったから、躊躇なくしゃべってしまった。でも、フランス語をしゃべれないと思っている?)


「どうした?」

「いえ、言葉なら少し分かったので」


(本当は、全然分かってたけど、ここは少し分かったって体でいこう。今まで必要なことしか話してないしいけるいける)


「そうか、凄いな。お前くらいの歳で他の国の言葉をしゃべれるのは凄いことだぞ」


 何故か、銀髪の男に褒められた。疑問に思っていると、男は自己紹介をしてきた。


「俺は、ウィリアム・ロメオ。ゴールデン・ウルフ(黄金の狼)の船長だ」


 そう言って、銀髪の男改め、ウィリアムはニカリと笑った。


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